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02(side蛇月)
その女はなんなんだよッ!
ソイツよりオレのほうが、俺だってッ!
「ぃ、やだぁ……俺だって、そこが、いい……っ」
鼻の奥と胸がギュッと収縮した。
ほんの一瞬、素に戻ってしまい、瞳に涙がじわりと滲み始める。
女だから? 咲は女がいいのか?
だけど俺のほうが絶対に咲を愛しているし、どんなプレイだって付き合う。
咲だって俺のアッチのテクはなかなかだって言ってたもん。
ビッチなりに具合はイイらしい。喜んだことを覚えている。
もし咲がオネダリするならなんでもヤるぜ? フィストもスカもアオカンも薬もオモチャもエイジ金蹴り窒息圧迫乱交スワッピングなんでもやるって。
ダメ? 俺じゃダメ?
「ッ、はっ、女がイイとかンなこと、お前関係ネェだろォ! なぁっオレのが、ずっと気持ちよくシテやれる! オレのがイイッ!」
思うが早いか、俺は勢いのまま、咲の首に腕を回す。
かけのぼった血液は下がることはなく、回った酔いは回り続けてまともな判断なんてできやしない。
そしてそのまま取り乱すこともなく俺と女を眺めていた咲の薄い唇を、自分のそれで奪い食らった。
「ンッ、ん」
店の廊下でギャーギャー騒いだ挙句、公衆の面前で強引にキス。しかもベロチュー。
隣で女が絶句している。
悲鳴をあげる寸前で声が枯れたような顔の店員たちが視界の端にいた。
なんだなんだと個室から顔を出した野次馬の客たちだって多くいる。
その全てが今の俺には認識できない。
ただこれは俺のなんだと駄々をこねたくて、ひたすら舌を伸ばして縋りついた。
「んぅ、ん……っ、ぅふ……っ」
「ん……あーあ……」
「はぁ……っザマァ! クソアマ、消えやがれ……っばか、ばーか……っ、ばかぁ……ふ、とらねぇで、ずるぃ……ぅえ、ぅぇぇ……っ」
しつこいくらいに舌を差し込みベロベロチュウチュウと吸いついてから、強く抱きついて首筋に顔を埋める。
見たか。
わかったらさっさと消えやがれ。
「これ、なんか酔ってるぽい? あ、ベロベロだと幼児化するんだっけ」
「ちょっと! なんなのよコイツ!」
罵倒するだけ罵倒して、メソメソと泣きだしそのまま動かなくなった俺に、耳元で特大のため息が聞こえた。
女の非難? 聞こえねぇな。
俺の耳は咲の声専用。ふーんだ!
「あー……シホちゃん。ゴメンネ。ご飯は別の日な」
「えっ!? やだ、なんで!? 冗談でしょ? てかコイツ誰よ! 私といるのに咲野にキスしてふざけてんの!?」
「うん、シホちゃん」
「っやだ! 私、咲野の予定が空くの凄く待ったじゃない! なのに咲野は男にキスされて説明しないし抵抗しないし、それで今日はお開きなんていや……っ!」
「シホちゃん」
「いやよ! いい加減にしてっ! 別の日なんて簡単に言うけど、私にだってあんた以外の人と予定があるのよ……っ!?」
「シホ」
「いつまでも私があんたの言うこと聞くと思ったら大間違い! 咲野なんかもうっ」
「そう」
「ぁっ……」
「そんなに別の日が嫌なら、仕方ねーなぁ。ご飯、する?」
「っ、~~っ、さ、咲野……っ」
クイ、と首を傾げる咲のゆるやかな微笑みに、涙目で食い下がっていた女は、ヒクリと喉を搾った。
目を剥いて駆け引きを打った女の決死の哀願も、咲には効かない。
一見すると折れたように思う言葉も、相変わらず澄んだままほの暗い瞳を見るとそうじゃないとわかる。
もしこのまま頷いて、女が咲と食事をすることができたなら、今日のさよならは永久のさよならになるのだ。
咲のルールは〝嫌ならやめる〟。
嫌がられたら、やめるから。
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