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06(side蛇月)

 男の、自分への下心を押しつけられるって、普通とんでもなくキメェと思う。  生殖器なんて生々しい肉。  同性異性関係ない。  欲情されて、硬くなったモノ擦りつけられて、熱を帯びた腕を首に回されるなんて、虫唾が走る。  実際俺は好感度の低い人に触られただけでもいつだって虫唾オリンピック状態だった。うへ。  なのに咲は特に動じない。  ふぅんと、鼻を鳴らす程度。 「タツキのパンツ。じとじとに湿ってるケド……俺に押しつけ痴漢、まだすんの?」 「んひ、っぁ……」  余裕の咲が乳首を弄っていた手を下げてジーンズの中をまさぐると、ニチュ、と粘着質な音が鳴った。  下着には見事にシミができているだろう。だって俺、完勃ちしてんだもん。 「んふ……ん…ぅ……」 「フッ、直接触ってねぇのにガチガチになんのスゲェね。あ、褒めてんだよ。変態の才能あるわ。タツキ痴漢すんの好き? このままイク?」 「はっ……はぁ……っ」 「それとも生で股間擦りつけるほうが、泣き虫タツキはお好みかにゃー」 「い゛ぁ……っ」  首筋にぺろぺろと舌を這わせてみると、逆に首筋に噛みつかれて、キスマークなんて生優しさのないどぎつい歯型をつけられた。  痛い。皮膚がボコボコと歪む強さだ。  また虐められた。 「噛んだ……っぃたい、咲……ひっく、うぇ……なんで、いじわるばっか、オレ……おれも優しくしてほしい……っく、ぅ……っ」  ポロポロ、ポロポロ。  じわぁと滲んだ涙がポロポロと溢れる。  咲は俺をいじめてばかりだ。  本当は俺は、とても甘やかしてほしいと常日頃祈っているのに、とてもじゃないが叶わない。  突然湧いた感情を漏らすと、今度は優しく噛みつかれた。違う、噛まないでくれよ。咲。甘くしゃぶって。  それでも調教されきった身体は痛みを快楽に変換してしまう。  股間を熱くさせながらぶすくれて泣き出すなんて子どもじみた俺を、咲はワガママ、と叱るように叩いた。 「ひっ、またいじわる……!」 「ご機嫌じゃん、タツキ。今日はやけに楯突くなぁ……」 「ごきげん、ちげぇもん……おれ今日、怒ってる、咲……なんであの女には優しくすんの……? アイツ、今の彼女……? でも、おれのがきっと、キスがうまいもん……」 「くっあはは、なにそれ。おこなの?」  咲は俺の怒りなんて、聞いたってどうだっていいんだろうけど。  俺はムカムカするし、悲しくって、寂しくって、自分のほうが咲に尽くせるって、ヤキモチをモチモチと焼いた。  独占欲と執着と依存が止まらない。  崇拝と愛情を混ぜた先の恋なんて、どうしたってこうなるのだ。  だから酒浸りなことをいいことに、ドロけた脳みそで文句を言う。 「ぅ、う……咲はさぁ……しょーごがおきにいり……なの?」 「あちゃ~。落ち着いただけで、オマエまだ酔ってんだろ」 「酔ってねェもん……」 「くくく、真っ赤な顔して?」 「さきのせぇだもん……」  耳元で低く喉を鳴らす声。  珍しく優しくポンポンと頭をなでてくれたりするから、俺は気が大きくなっている。  腹いせに、咲のシャツでまた涙を拭く。  咲は冷たいと頭を叩いた。 「なんで? 突然ショーゴ?」 「咲、セックスしてぇなーって時、おれを呼んでくれてたのに、最近はしょーご……えらぶようになったから。あとね、咲……しょーごにひどいこと言うけど、ひどいことあんましねぇから……しょーご、噛んだりしねぇよ、たぶん……」 「酷いことねぇ。誰にでもそんなもん、した覚えないよ」 「うん……うまく言えねェけど、ずるい……ズルい……ひっく……」 「も~泣くなよ~。いちいちナイーブなやつだなタツキィ。なに趣味?」 「お、おれにはそんなんばっかいうぅ……!」 「ハァ……」 「ため息、だぁ……! 面倒くさいっておも、おもったろぉ……っうぇ、ごめんよぅ……ぅぅぅ……っ」

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