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07(side蛇月)

 咲の好きじゃない、めんどくさい男。  今俺はそれになっている。  俺がぎゃんぎゃんと騒いだ言葉に、咲は特大のため息を吐き出した。  絶対めんどくさいって思ってる。  酔いどれ頭の俺でもわかる。ってことは当然、機嫌が悪くなっているのだと思う。  咲はしがみつく俺の腕を無理やり引き剥がして、そのまま目の前のテーブルに、俺の上半身を押し倒す。  ドン、と硬い音がして、自分の背中とテーブルがぶつかった。  足はまだ咲の身体を跨いだまま上半身だけが仰け反り、テーブルに押しつけられている状況だ。  咲は壁に背をつけたまま優雅に笑う。  ぽかんと背を反らせている俺の腰を掴み、もう片手でシャツの隙間から肌をなでた。 「ぁッ、ん……ッ」 「ショーゴはなぁ、確かに気に入ってんのカモね。アイツはどうしたってアイツにしかなれなくて、わかりやすくて面白い。世迷い言は毎度言ってくるからアレだけなくせばなぁ……割とお気に入りなのかな。知らんけど」 「っ、やっ、ぱおれも、いらねぇの……?」 「ぶっ、難しいこと言うね? コーヒーがあるから酒がいらないわけでもねぇだろ」 「ぁっ……は、ぁん……っぁ、ふ……」 「良さげなトコ、オマエにもある。だから結局、別にオマエラに対する俺の関心はどんぐりの背比べでしかねーよ」  咲は硬くなった俺の肉芯を、下着の上から指先でユルユルと擦る。  肌をなでる手はそのまま骨の上、腹筋、臍、と煽るようになでまわった。 「ホントは他にも呼び出してるヤツらいるけどなー……タツキより、ショーゴの呼び出し頻度が高い理由を教えてあげる」 「ぁ……っん、ぅ……」 「オマエの名前がタツキで、ショーゴの名前がショーゴだからだ。電話する時……た行より、さ行のほうが上なんだよね」 「ひゃ、っ……あ、っ」  淫猥に蒸れた股間を揉み、扱かれながら教えられた、改名したくなるような理由。  つまりショーゴを多く呼ぶようになったのは事実だが、それは呼び出しの手間のせいだった。単純にタイミングもあるだろう。俺の休みは不定期だから。  咲は変わらない。  よかった。嬉しい。咲が分け隔てなく無関心で、嬉しくなる。  そう言うと、咲は「おもしろけりゃ関心してると思うけど」と笑った。 「確かにね、タツキのほうがフェラも愛撫もキスもずっと上手い。感度もイイし、ノリもイイ。ショーゴはいつまでたっても下手くそだよなぁ……」  考え事をそのまま口から出しているような、独り言に近い言い方。  それでも褒められたから、俺は嬉しくってへへへと笑った。  うぅん、機嫌、悪くねェのかなぁ……よくワカンネェ……でもオレうまいって。  咲が今どうなのかわからなくなって、俺は肉棒を扱かれながら天井を見上げてブルッ……と震える。  声だけで、手だけで、それで構わない。  それで十分気持ちイイ。  お手軽な男だと言われても、俺はアルコールで火照った肢体で感じられる。 「ん、ん……さ、きぃ……っ」 「タツキのイイトコは、いろいろあんよ。セックスはうまいし、俺の思うとおりに自分ごとメタモルフォーゼ。とかやんじゃん。ホントはこんなに泣き虫なのになぁ~?」 「とおい、だきつきたい……さき……っ」  俺の身体をいじめながら、咲が俺を嘲笑して愚かさを褒める。  咲が見えていない俺はあまり理解できないけれど、とにかく触れたくて、離れているのが嫌で、子どものように腕を伸ばした。

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