88 / 306
02※
そんな作業をもう何度も繰り返しているので、最期の数歩手前、キョースケはか細い声で、咲、と俺を呼んだ。
健康的に日に焼けた小麦色の肌は汗や精液やローションでヌメり、電灯の明かりに照らされ淫猥に光る。
短く整えた黒い髪が水墨画のように額に張り付き、脂汗に濡れていた。
正常な時は澄んだ色をしている瞳は、すっかり焦点が合っていない。
「ほら、気持ちいい気持ちいい。絞殺セックス気持ちいいネー。何回イッてもキョースケは首絞められっとイクもんネー」
「許し、ヒッ…ンッ……ン゛ゥゥ……ッ」
「ん? やぁ、怒ってねぇんだから許すもなんもねーよ。イけ。ずっとイけ」
オモチャにされるキョースケは、懲りずに俺に許しを求めた。
もちろん一蹴する。怒ってねーもん。
これほど必死に許してくれと訴える目を見るのは、下着姿でバイブを突っ込んだまま、首輪を着けて深夜徘徊させた時以来だ。そのくらい困っているのだろう。
だけど、やめない。
だって、綺麗なものは見てたいだろ?
死にそうなほどキョースケは輝くから、もっと見たくなるじゃん。当然。
もっと死にかけろな、キョースケ。
もう出せなくても中イキしまくってるからヘーキヘーキ。
オマエもう、手遅れだしな。
「──ゲホッゴホッゔ、ぇッ……ひぃッぐ……咲、も……許して、ァ……もうゆるして……さき……さき……っ」
数えていないので詳細は不明だが、何度目かの絶頂と酸素供給タイムになった。
キョースケは胸を大きく上下させながらゲホゲホと咳き込み、か細く潰れた声でゆるして、ゆるして、と訴える。
だから怒ってねーよ。
コレお仕事でしょーが。
そう思うが、ボロアパートの畳もキョースケの美味しそうな指も、ボロボロだ。
ボロアパートの畳だからもともとかも。
畳引っ掻きすぎて爪割れてやんの。ここの壁薄いのにアンアン言っちゃってさ。
んま、何回か出したし、もうそこそこ楽しんだからなー。どーしよーかな。
低く耳心地のいい声で艶っぽい嬌声を響かせていたキョースケは、体液でぐっしょりと濡れたシーツの上で「もう、感じたくない」と泣きそうになっていた。
首絞められて感じるような自分が、どうも気に食わないらしい。
「死ぬほどイけんのにやなの?」
「はっ……ん……むり……咲……んっ……」
「んー」
首と腹の下から両手を抜いて、シーツに沈んだキョースケの腰を掴み、考え事ついでに弛んだ肉穴を怠惰に突き上げる。
ハッ、ハッ、と犬のように舌を出す焦点の合っていない目。おもろ。
腕すら上げられないキョースケは、ほっぺをシーツにへばりつかせて俺の律動に合わせて虫のような声で鳴く。
もともと締まりのイイ体だが、生死の境で絶頂を繰り返す内部は痛いくらいに収縮して、今も名残でヒクヒクしていた。
「ぁっ…許して……ぁっ……咲……っん……お願い…咲……ぁっ…許して……」
暇つぶし程度の出入りを繰り返すと、結合部からゴプッ、と泡立った体液が会陰を伝い、シーツを汚す。
自分の体の中を好きなように突かれてもされるがままな程度には、キョースケの体はただの肉塊だ。割と疲れてんのね。
許して、咲、と鳴く哀れなキョースケは見ていていじめがいがある。
だけど、そろそろ許してやるか。
「ぁっ…ふ……っさ…咲ぃ……」
「ん。もーいーよ」
「んぁっ……はっ……ん……ぅ……」
抱えていた尻をグニ、と割り、中にねじ込んでいた怒張をゆっくりと引き抜く。
ズル、と引き抜いたモノに絡みつく淫液がねっとりと糸を引き、真っ赤に充血した後孔の間で切れた。
実験。終わったら満足しちゃったかんね。死ぬ前に飽きてよかったなー。
「……ぁ…く……」
拡張されてヒクンヒクンと閉じきらず収縮を繰り返すア✕ルから、ドロ……と薄ら白い液体が溢れ出す。
だってキョースケが毎回中に出してくれって強請るんだもんよ。
俺なかなか精力あるタイプだし。あと最初にローションたっぷり注いだのもある。なんでけっこー出てくんね。
バカになっている括約筋を押しのけ、肉の割れ目から排泄される種汁。
呼吸に合わせてびく、びく、と薄く痙攣するキョースケのしなやかな肢体は、細やかな傷や変色した打ち身があった。
上等な男なのに、とことん哀れな。
俺と違って優しすぎるキョースケは、いつも割を食う。
快感の余韻と疲労困憊で顔もあげられない様を眺めながら、中途半端に勃っている自分のモノを擦り、キョースケの背中にかけてやった。仕上げ。かつ気まぐれ。
「ぅ……なん……熱……」
褐色の肌が白く彩られ、拡がりきった肛門がきゅう、と窄まる。
柑橘系の香りなキョースケの表情は堕落し、虚ろな瞳が緩慢な動きで瞬きをした。
うーん。これは悲惨。
チップ弾んであげちゃうレベル。
死体だと言われても納得できそうな惨状をしげしげと眺めてから、近くに置いてあるティッシュペーパーを数枚引き抜いて汚れた自身から体液を拭い、服装を整えた。
ジジ、と電灯が軋む。
住宅地を通る車のエンジン音が聞こえるほど、今日は静かな夜だ。
狭い室内には、事後特有の淫猥な香りがむせ返っていた。
ともだちにシェアしよう!