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02※

 そんな作業をもう何度も繰り返しているので、最期の数歩手前、キョースケはか細い声で、咲、と俺を呼んだ。  健康的に日に焼けた小麦色の肌は汗や精液やローションでヌメり、電灯の明かりに照らされ淫猥に光る。  短く整えた黒い髪が水墨画のように額に張り付き、脂汗に濡れていた。  正常な時は澄んだ色をしている瞳は、すっかり焦点が合っていない。 「ほら、気持ちいい気持ちいい。絞殺セックス気持ちいいネー。何回イッてもキョースケは首絞められっとイクもんネー」 「許し、ヒッ…ンッ……ン゛ゥゥ……ッ」 「ん? やぁ、怒ってねぇんだから許すもなんもねーよ。イけ。ずっとイけ」  オモチャにされるキョースケは、懲りずに俺に許しを求めた。  もちろん一蹴する。怒ってねーもん。  これほど必死に許してくれと訴える目を見るのは、下着姿でバイブを突っ込んだまま、首輪を着けて深夜徘徊させた時以来だ。そのくらい困っているのだろう。  だけど、やめない。  だって、綺麗なものは見てたいだろ?  死にそうなほどキョースケは輝くから、もっと見たくなるじゃん。当然。  もっと死にかけろな、キョースケ。  もう出せなくても中イキしまくってるからヘーキヘーキ。  オマエもう、手遅れだしな。 「──ゲホッゴホッゔ、ぇッ……ひぃッぐ……咲、も……許して、ァ……もうゆるして……さき……さき……っ」  数えていないので詳細は不明だが、何度目かの絶頂と酸素供給タイムになった。  キョースケは胸を大きく上下させながらゲホゲホと咳き込み、か細く潰れた声でゆるして、ゆるして、と訴える。  だから怒ってねーよ。  コレお仕事でしょーが。  そう思うが、ボロアパートの畳もキョースケの美味しそうな指も、ボロボロだ。  ボロアパートの畳だからもともとかも。  畳引っ掻きすぎて爪割れてやんの。ここの壁薄いのにアンアン言っちゃってさ。  んま、何回か出したし、もうそこそこ楽しんだからなー。どーしよーかな。  低く耳心地のいい声で艶っぽい嬌声を響かせていたキョースケは、体液でぐっしょりと濡れたシーツの上で「もう、感じたくない」と泣きそうになっていた。  首絞められて感じるような自分が、どうも気に食わないらしい。 「死ぬほどイけんのにやなの?」 「はっ……ん……むり……咲……んっ……」 「んー」  首と腹の下から両手を抜いて、シーツに沈んだキョースケの腰を掴み、考え事ついでに弛んだ肉穴を怠惰に突き上げる。  ハッ、ハッ、と犬のように舌を出す焦点の合っていない目。おもろ。  腕すら上げられないキョースケは、ほっぺをシーツにへばりつかせて俺の律動に合わせて虫のような声で鳴く。  もともと締まりのイイ体だが、生死の境で絶頂を繰り返す内部は痛いくらいに収縮して、今も名残でヒクヒクしていた。 「ぁっ…許して……ぁっ……咲……っん……お願い…咲……ぁっ…許して……」  暇つぶし程度の出入りを繰り返すと、結合部からゴプッ、と泡立った体液が会陰を伝い、シーツを汚す。  自分の体の中を好きなように突かれてもされるがままな程度には、キョースケの体はただの肉塊だ。割と疲れてんのね。  許して、咲、と鳴く哀れなキョースケは見ていていじめがいがある。  だけど、そろそろ許してやるか。 「ぁっ…ふ……っさ…咲ぃ……」 「ん。もーいーよ」 「んぁっ……はっ……ん……ぅ……」  抱えていた尻をグニ、と割り、中にねじ込んでいた怒張をゆっくりと引き抜く。  ズル、と引き抜いたモノに絡みつく淫液がねっとりと糸を引き、真っ赤に充血した後孔の間で切れた。  実験。終わったら満足しちゃったかんね。死ぬ前に飽きてよかったなー。 「……ぁ…く……」  拡張されてヒクンヒクンと閉じきらず収縮を繰り返すア‪✕‬ルから、ドロ……と薄ら白い液体が溢れ出す。  だってキョースケが毎回中に出してくれって強請るんだもんよ。  俺なかなか精力あるタイプだし。あと最初にローションたっぷり注いだのもある。なんでけっこー出てくんね。  バカになっている括約筋を押しのけ、肉の割れ目から排泄される種汁。  呼吸に合わせてびく、びく、と薄く痙攣するキョースケのしなやかな肢体は、細やかな傷や変色した打ち身があった。  上等な男なのに、とことん哀れな。  俺と違って優しすぎるキョースケは、いつも割を食う。  快感の余韻と疲労困憊で顔もあげられない様を眺めながら、中途半端に勃っている自分のモノを擦り、キョースケの背中にかけてやった。仕上げ。かつ気まぐれ。 「ぅ……なん……熱……」  褐色の肌が白く彩られ、拡がりきった肛門がきゅう、と窄まる。  柑橘系の香りなキョースケの表情は堕落し、虚ろな瞳が緩慢な動きで瞬きをした。  うーん。これは悲惨。  チップ弾んであげちゃうレベル。  死体だと言われても納得できそうな惨状をしげしげと眺めてから、近くに置いてあるティッシュペーパーを数枚引き抜いて汚れた自身から体液を拭い、服装を整えた。  ジジ、と電灯が軋む。  住宅地を通る車のエンジン音が聞こえるほど、今日は静かな夜だ。  狭い室内には、事後特有の淫猥な香りがむせ返っていた。

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