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「キョースケ、もー終わりだよーん。はよ起きな。ってか生きてる?」 「……っん……はは……だいじょーぶー……」  体液で湿った布団へ泥みたいにへばりついていたキョースケが、喘ぎすぎてザラついた声でヘロヘロと返事をする。  やっと話せる程度に回復したらしい。  おーう。何回ヤったってくらい抵抗と絶頂で体力の底まで奪い尽くしてうっかり死にかけたのに、よく復活できたなー。ガンジョーガンジョー。流石売れっ子。  シャワー行く? と尋ねると、まだ動けないと首を横に振られた。  あらん、俺ちゃんのせい?  だって面白かったんだもん。  お詫びに勝手に冷蔵庫を開けて勝手に麦茶をグラスに二人分入れ、一つを差し出してからもう一つを煽った。  あぁいい感じ。  運動の後の麦茶は喉に染みる。これぞ青春の味ってヤツですな。知らんけど。  飲みながら渡すものだから危なげに傾き、キョースケは慌てて俺の手からグラスを受け取る羽目になった。 「もう、咲は困った人だなー……というか今日なんで首絞めたんだよー……」 「好奇心? でも酸素ねぇほうがケツの締まり良かったわ。良すぎだからちっと力抜けってカンジだけど」 「嬉しくない……」  麦茶を飲みながらガックリと項垂れ、唇を尖らせて抗議するキョースケ。  なんでよ。褒めただろ。喜ぶとこよ。 「いやまぁいいんだけど、嬉しくはないぜー……動きにくいって言いながら突くし、締まり良いって言っても、咲はわざと恥ずかしくなることばっかり言うもんなぁ……」 「言ったっけ? 忘れた。俺セックスはノーマル派だし」 「はは、冗談。そりゃ俺は多少変態プレイには慣れてるけど、咲のセックスはベクトルが違うんだよ」 「首絞めただけなのに」  割とあるあるじゃね? と俺があっけらかんと流せばキョースケは仕方ないなと呆れて笑いため息を吐いたが、ゆるく叱る程度で結局やめろとは言わなかった。  だって俺は客だから、キョースケの。  キョースケは、金欲しさにカラダを売るゲイの専門学生だ。  人当たりよくいつも快活に笑うキョースケは、一見健康的で健全なエロとは無縁の爽やかな男前に見える。  現実は、薄皮ひん剥けば淫らな男娼。  たかが紙切れのために服を脱ぎ夜毎見知らぬ男の寝床で希望通りのプレイで喘ぐ、便利なデリバリーボーイである。  っても、金がいるのはキョースケじゃないんだけどさ。  俺は愚かなキョースケを好奇心の餌食に食い散らかして、援助してるわけ。  優しいでしょ?  キョースケとの付き合いは年単位だったかなー最近かなー? 忘れた。  汗をかいたグラスを手に、素足の裏で畳を擦って出会いをほじくる。  男がこういうことをするならば女のそういう店よりニーズに寛容でなければならない。顧客の絶対数が少ないからだ。  ただセックスができるだけではなく、少し特殊なプレイに対応できる見目のいい男。  キョースケの職場はそういう男を扱っている風俗店である。  だーいぶ前のこと。  たまたま、知り合いのちっと猟奇的なプレイが好きな変態に買われかけてるとこを見かけてさ。  気まぐれに横取りしてさよならバイバイ。したはずなんだけど、初売りセールなキョースケに売り込みかけられてさ。  金と欲望の関係が今も続いてる。だけ。  まぁ俺が気まぐれに横取りしてなきゃキョースケは地雷系変態オヤジの餌食になってたからにゃー。流石にそれは嫌だから俺に営業かけてんだろうにゃー。  ほら、ヤバイクスリ打たれてトリップしてるとこ犯されながら背中の皮膚剥がされたりしたくねーじゃん? ダルいし。  その点俺は比較的良心的よ。  金で買うというルールなら、欠損、洗脳、拷問、改造はとりあえずしないし、知り合いに売ることも取り返しのつかない傷をつけることもない。  生きて返すことが前提なのだから、首は締めても刺殺したりしない。  だからキョースケが金のない時や俺が思いつきでヤりたいことを思いついた時に、ギブアンドテイクでセックスする。  まー俺相手に困ってないけど。  セフレいるし。ただの無駄遣い。  だって、キョースケがね?  なんでもするから買ってくれって、言ってくんの。  必死の形相だったからなんだか笑えて、俺は軽々しく「いーよ」と笑った。

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