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04
見てくれのイイ人間は男でも女でも金を稼げていーよな。
素朴で親しみやすい端正な顔立ちと無駄な贅肉のない体を持つキョースケは、欲情される価値がある。
良かったね、キョースケ。
お前は客に困らないだろうから、いろんな男に買われるぜ。
俺は笑顔で褒めてあげたのに、その時キョースケは、死にそうな顔で笑ったんだ。
未だにその理由はわからない。
んー? なんでだったんだろ。俺だとビタ一文の値もつかないのに。名誉なことだゾ。大好きな金が稼げるんだしさ。
カラン。
手の中で、氷が音を立てて溶ける。
冷えた麦茶は三口で飽きてしまい、二つ目のグラスをキョースケに押しつける。
キョースケは飲むぶんだけを注げと叱ったが、俺のグラスに入った残りの麦茶をくしゃりと笑って飲み干した。
わかっていたけど変なやつ。人の飲みさしをもらって不快になんねーのな。
空のグラスを畳に置くキョースケから視線を外して、俺は尻ポケットから財布を取り出し、適当に札を掴んでそれも押しつけた。
「はい、今日のお駄賃。無駄遣いしちゃだめよ? キョーちゃん」
「ありが、っ……咲、これは多いって」
「チップつけちゃってるもん。そーゆー人形みたいでウケたから。戻すのめんどくせーから返さねぇで持っとけ」
押しつけた二桁近い枚数の札は、焦った声で狼狽えるキョースケの手元で震える。
気に食わなくても財布をもう一度出す手間のほうが面倒だ。
返されたって迷惑なだけだし、要らねぇならケツ拭く紙にでも使ってちょーだい。そんなもんこれっぽっちも惜しくない。
俺にとって本当に、金は紙だ。
便利な紙だが、なくても困らない。
明日無一文の裸一貫で春の夜風に吹かれることになってもどうでもいいと思える。
なのにキョースケは受け取った札のシワを丁寧に伸ばして、宝物でもしまうような挙動で近くに置いてあった自分の財布を手に取り、よぼよぼの手つきでそっとしまった。
泣きそうで嬉しそうな、変な顔。
自分の体をバスタオルで取り急ぎ拭い、キョースケはよたよたと這って布団の上に再度横になった。
「ありがとうな、咲。でも俺にチップ払う金があるなら他の子に使ってあげたほうがいいと思うぜ?」
「んー? や、女の子たち別に奢られたくて俺と遊んでるわけじゃないかんね。そーゆー子もいるけど、ほんとは違うって感じ」
女の子たちは、見えないなにかを求めてきてんのよ。
そう言いながら肩が当たる距離感でキョースケの隣にゴロンと寝転がると、呆れを含む苦い笑みを返された。
「じゃなくて、セフレの子たち。ほら、こないだ蛇月くんと翔瑚くんに酷いことした話聞いたからさ」
「あーん? してねぇよ。俺のを舐めてるタツキをオマエが犯したらおもしろそうだよね、ってショーゴに言っただけ。お初でもねーしにゃー」
「お初じゃないってむしろ悲惨だし……そのあと咲に二人でしてるの見られながら無自覚な言葉責めをされるんだから、俺ならどっちの立場でも泣くぞ、バカ。あと蛇月くんの悲惨な画像ほれほれって俺に見せるのもかわいそうだから秘めといてあげなさい」
「なんで? おもしろいからキョースケに見せたんだケド。みんな愉快なのリツイートすんじゃん? 一緒一緒」
「せめて鍵垢にしてあげろって……ホント、相手の都合を考えないんだから咲は真性サディストだよな〜……」
「あはは。キョースケって俺には結構ズケズケ言うよね」
口だけで笑いながら話をちょんぎる。
俺はサドじゃないけど。
リョナラーでもないので血を見る嗜虐を楽しむ鬼畜じゃなくても、人の心は少々刺激的なほうが剥き出しになる。
まぁ節度は持ってるけどね?
ホントホント。マジガチ。命かける。指切りげんまんーってさ。ウフフ。
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