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これが優しいってことなんだろーな。
もしくは殴られてもだいしゅきぃってやつ? アイシテルって理由でなんでも我慢しちゃう哀れで無様な感情なんだろ?
至って真剣に考えてもわからなさすぎて、笑いしか込み上げない。
だってそれ俺に言ってる時点で、黙って我慢できる限界を超えてんじゃん。
優しさってすげーね。
俺にゃー無理めだわ。アハ。
「こんなにキレーな生き物なのに」
「っ……」
愚かなキョースケの項にそっと指先を当てて、スリスリとなでてやる。
「……ん……」
「うふふ。キョースケはここなでると目ぇきゅってして面白いよなぁ。トカゲみてぇ。日向ぼっこ中の」
「はは、咲は例えがいつもわかんないよ」
笑いながら、されるがままの俺のトカゲ。
だけど冷たい俺の指先に、ザラリと不愉快な感触があった。
酷い傷。深い。鋭い。
髪を掴みあげると、薄らとまだ傷の残る項があらわになる。
ブサイク。
かわいくねー。
「い゛っ……、つ、それは殴られてコケちゃって、ちょっと切れたやつで……ん、っん、ぁ……っ」
キョースケの項は、まずかった。
汗の味。アハッ、あんなにやったのに目が欲情してやがんの。傷跡しゃぶられて興奮してんだ。
背中の筋を爪でなぞる。
絞り出したような枯れた声が、俺の耳朶を掠める。
バカだなーホント。不良債権っしょ。
俺は捨てて捨てられて、不感症になるくらい繰り返して慣れきって、排除して生きてきた。
なんでも抱えて、しがみつかれて。
そんなふうに生きたことはない。
キョースケは親鳥のように、温めた卵から孵った全てのヒナへ、無償の愛を誰にでもふりまくのだ。
それがカッコウの卵でも鳶の卵でも愛さずにはいられない。
自分の羽を毟ってでも温めて、凍え死ぬ寸前でも上手く鳴けない。そして利用されて食い殺される。そういう生き物。
誰よりも愛することに長けた哀れな小鳥。スギタキョースケ。
遠い世界ならいざ知らず。自分が生身で触れたものには、生温い気持ち悪い優しさをあげちゃうんだろう。それもなんの打算もなく。
分け隔てなく手の届く者共には優しくすることを決して厭わない。
「キョースケ」
「はっ……ん? どした、咲、っぁ」
ついさっきまで気まぐれに首を絞めるようなセックスをしていたのに、キョースケは俺が呼ぶと、いつも変わらず返事をした。
キレイだ。本当に。
反吐が出る。
こいつも人のことは言えやしない。
アハッ! 俺のセフレへの所業が酷いなんてよく言うよな。
俺ならキレる? 泣く? それその趣味の悪いカレシに本気でやってんの? 冗談みてーな甘っちょろいこと言ってんだろ?
ハッ、怖いくせに。
俺はね? タバコの火種押しつけられたら、ユリちゃんのヘアアイロンでそいつの唇ストレートにするよ?
ビール瓶で殴られたら? 瓶底口に捩じ込んで歯茎ごと粉砕するもん。常識だろ?
背中蹴られたら背中轢く。
顔殴られたらアゴ外す。
やられたらやられただけやり返すし、ただではやられない。
言っても気分によるけどな? 気が向けば泥に沈んであげたりするけどそれはノーカン。ギブアンドテイク。
キョースケはバカでしょうがない。
楽しくなかったんだろ? それとのセックス。おまけに趣味も悪いときた。
じゃあ責任取ってもらうかな。俺なら。
「眼球にさ、爪入れてい?」
「あっ、う……っ悪い……い、やだ……流石にな……ぁ、っん……」
背中に爪をたててしがみつかれたからそう言うと、キョースケは快感に喘ぎながら、申し訳なさそうに苦笑した。
はーブッサイク。
おもんねー。
ホント、くだらない。
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