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31(side今日助)
震えて顔を上げられない俺の耳に、アハッと愉快そうな笑い声が聞こえた。
「バーカ。キョースケが好きなのは俺じゃなくて金だろーが。金ヅル捕まえておきたいのはわかるけどサキちゃんにそのリップサービスは逆効果だから、マジで。覚えておいてね? 未来永劫細胞単位で刻め」
俺は甘く、愚かだった。
どんな相手だろうがどんなプレイだろうが金でカラダを売ってきた俺が、今さら愛を告げたって、この愛情不信症患者には決して届きやしないということを。
「……バレたか……もう言わないよ」
「バレバレっしょ。天地がひっくり返ってもありえねぇもん」
当然のようにそう言い切る咲が濁った瞳をしていたことに、顔をあげられない俺は気づかなかった。
咲の腕の中で、いつものようにへらりと笑う練習をする。
言い切られたか。
俺は、お前にふさわしくないか。
うん、うん。……うん。大丈夫だ。
まだ笑える。
まだ頑張れる。
もし家族や友人が今の俺の頭を覗いたら、頑張るような相手じゃないと、呆れて叱られるかもしれない。わかってる。俺は男を見る目がない。
騙されているわけじゃないんだ。
消えた恋人と違って、俺は咲が酷いやつだともう知っている。セフレが何人もいて金で男を買うような人。
優しくもない。甘くも。手つきや行動や言葉をそれらしくしてもそれに心が伴っていない。感情だけだとわかる。
俺はこう見えて聡いから。
それじゃあなぜまだ頑張れるんだ? と尋ねられても、俺は正しい答えを持ち合わせていないだろう。
ただ一つ言えることは、俺は咲と、まだ一緒にいたいだけなんだぜ。
もう少し、咲と話していたいんだよ。
「……じゃあさ、全然関係ないけどさ、咲の好みのタイプってなにかあるのか? 性格とか、見た目とか、ステータスとか、なんでもいいんだぜ」
自覚早々終わる恋なんてあるもんか。
めげない、頑張る、なんとかなる。それが俺の唯一の取り柄だ。
へらりと笑みを作りながら顔を上げてじっと見つめると、ビー玉のような薄い瞳がきょとん、と見つめ返す。
しばらくの間があった。
まずいことを聞いたか、と少し焦る。
「アハハッ!」
「へ」
するとややあって、咲は爆竹が弾けるように賑やかに声を上げて笑った。
俺はポカンとマヌケ顔を晒す。
いやだって咲がこんなに笑うなんて思わなかったし、そもそも笑われるとは思わなかったしさ。
咲はほんの数秒笑い、それから収めてニマニマと口元を歪めた。
「あー、ないと思ったけどあったわ」
「え?」
「バカがタイプなのかもしんねー」
「ば、バカ……?」
「そう」
楽しげに与えられた回答は珍回答で、好みのタイプになろうにもどういう意味なのかわからない。バカってどういうことだ?
俺が困きってあはは、と苦笑すると、咲は余計にクスクスと笑った。
それから、帰り際。
「あ、ええと……そうだ。学生はいろいろと物入りでさ……できればまた、たまにでも買ってくれないか?」
そう声をかけたのだが、咲は「そういうところだろ」とまたしても笑ってから、雑に頷いたのだった。
これは、長く深い底なしの恋の始まり。
そんな、笑い話のカケラの話。
第五話 了
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