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20(side今日助)
「全部バカな俺の自業自得なのに……勝手に救うんだから、咲はひどいな、ほんとうに……バカな……人だ……」
ひどいひどいと罵倒しながら涙を流して笑う俺を、咲は腑に落ちない表情で眺めている。
サリサリと髪を巻き込みながら項をなでる手は止まらない。
いつもはすぐに冷たくなる咲の指先は、俺の体温を吸って未だに少し温かかった。
「ひでーの? 俺が。そんじゃやっぱこれは、不正解なわけ?」
「ふせいかい、かはわかんないけど……」
「不正解じゃん。なんで泣くの。バカなのはお前だろうが」
「あはは。バカなの、咲だぞ。どういう手を使ったのか、あいつはこわい、こわいのに……手出したら、咲が危ない、だろー……あはは……」
「べ。俺はなんもしてねぇっての。でも残念カレシならワルイ子お仕置き部屋的なとこに行くもんだろーし、たぶん帰って来れねーよ? たぶんね。知らんけど」
雑に白を切りながら、言外にもう大丈夫だと伝えられる。あはは、こいつかわいいな。うん。あはは。
そうか。俺はもう大丈夫なのか。
理解不能、とばかりにため息を吐いた咲は、俺の肩を引き寄せて湯たんぽ代わりに抱きしめてきた。
「ん……汚れるぞ、咲……」
「もー汗かいてっしおんなじっしょ。最後くらいサービスしな?」
「いつもだろー。……っ、最、後?」
呆れた声で告げられた言葉。
俺の呼吸を刹那止めたそれを理解しきれなくて聞き返すと、咲はなにを言ってるんだとばかりに「あ?」と首を傾げた。
「キョースケ金返ってきたよな? 趣味の悪いカレシくんもいないよな? ならウリする意味なくない? ゼータクしなきゃセンセーのバイトだけでよくね?」
「っ……」
俺はお前の金ヅルなんだから。
そう理由を答えてもうどうでもよくなったのか、咲はんーと機嫌良く喉を鳴らしながらいつも通りに抱き抱えて、俺を抱き枕扱いする。
キュ……、と唇を引き結んだ。
これが最後の添い寝なのか。
一人だと寝付きの悪い咲の湯たんぽになれるのは、これが最後。
──そう、だよな……咲は、客だったんだから……。
「……っ……」
あまりにも、……あまりにも存在が大きくなりすぎて、失念していた。
体を売り買いする関係でなければ、こんなに肌を合わせることはなかっただろう。咲にとって俺はただ後腐れなく好奇心を満たせる相手だ。
俺に比べるとずっと冷たい身体。
俺を抱きしめている時は、温かい。
声が出なかった。
落ち着いたはずの涙がまた零れそうになって、必死に目玉に貼りつけておく。
最後なんて……嫌だ。
だって、俺はおまえが……!
「──……好きだ……」
絞り出すように、俺は咲の腕の中で想いの丈をつぶやいた。
好きだ。
咲が好きだ。
愛してる。
恐怖で始めた身売り。助けてくれた咲に見惚れて、追いかけたのはきっとただの好奇心だった。もう少し話をしたかっただけ。
なら、そのあと何度もわざわざ理由をつけて咲に買ってもらっていたのはなぜ?
貰ったお金を使えなくなったのは?
あいつに奪われて怒鳴りつけたのは?
怖くてたまらないはずなのに許せなかったのは?
不安な時、誰の顔が初めに浮かんだ?
理由はどこにでもあった。
答えはどこにでもあったのに、いざもうこの関係が終わるという瀬戸際でなければ気づきもしないなんて。
「俺は、咲が好きだよ」
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