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01(side春木)
映画見て、ショッピングして、ゲーセンで遊んで、昼メシはジャンクフード店という高校生みたいな遊び方をした。
期間限定のエビなんとかというバーガーに噛みついた状態で動きを止めた俺は、スマホ弄くりながらとんでも発言をした目の前のアホを上目遣いに見つめる。
今の今までいつも通りの休日だった。
高校生みたいな、というとこまで。
歯型のついたバーガーを取り敢えずトレーに置き、呆れを全開に聞き返す。
「咲ぃ? もっかい言って?」
「あ? しゃーねぇなーハルだから特別よ? 『俺、ドMらしいからとりあ一発ブン殴ってみてくんね?』」
「なぁさっきまでライブでひっかけたみかちゃんの話してなかったけなんでブン殴ることになってんだよソースどこだコラ」
返す声が低く尖る程度には如何ともし難い問いかけだ。
昼を少し過ぎたがそれでもそこそこうるさいショップ内の喧騒が薄ら遠く感じる。
ほんの一分前はこの間お持ち帰りした女の話をしていたはずだぜ咲ちゃんよォ……。
これだから脈絡のない生き様を地で行く男との会話はいちいち刺激的で、人形じみた笑みを作る形のいい唇が吐き出す言葉は、俺の脳を十分に混乱させた。
咲は「そんな話してたっけ?」と表情を変えずに首を傾げる。
長い付き合いそれはつまり、二度説明したんだからさっさと行動してくんないかなーと考えているに違いない。
詳しい話は咲の望みを叶えてからか。
胡乱げな視線を送りつつも、お絞りでなんとなく手元を拭き取る。
──ゴッ!
それからノーモーションで、咲の側頭部を強打した。
遠慮しねぇよ? 俺は。やるならやる。
手加減なしのガチゲンコだ。
俺が咲のアソビにノらないことがなかったんだから、まずはノる。
咲は瞬時に身構えたのか体勢を崩すようなことはなかったものの、鈍い音が響いて、それを目撃した周囲がザワッとにわかにざわめいた。
正直ちょっと恥ずかしい。
いい歳して店内でグーパンとか。
殴られた当人が真顔で患部を慰めてケロッとしているのに俺のほうがいたたまれなくて、不貞腐れた表情を隠しもせずに見せつけながらテーブルに肘をついた。
「おら、気持ちー?」
「アハッ、全然? なんでかねぇ……元ヤンのハルの一発とかイイ線いってると思うんだけど。もうちょい良さげな痛みない?」
「ヤンキーはとっくに卒業してんの。お前俺のこと殺す気かよ」
人の気も知らずに更なる刺激を求める親友をジトっと睨みつけて舌を出す。
咲が本気で望むなら骨も折ってやる気の俺にたまには甘いものを与えてくれたっていいものだが、どうせ望んでも貰えず、たまに不意打ちのおこぼれにありつけるくらいだろう。
「んで、説明は?」
「みかちゃんの鬼マイン。ひとつだけおもしろそーなのがあったわけ。SM診断だって。俺ドMらしいよ?」
「あっそ。どんな経緯か知んねぇけど、その診断信憑性ゼロってことだけはスゲー伝わったわ」
頭を抱えてやれやれとため息を吐く。
くだらねーことに興味持ちやがる。いつも。慣れた。
咲は俺の気持ちなんか少しも知らないから、あっけらかんとそういう話をするし、そういうことにも誘われるし、そのたびにこっちは気が気じゃない。
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