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02(side春木)

 まぁ知ってたとしても関係なく好きにされる気はする。  ってか、知られたら宇宙人認定される。  だって〝息吹 咲野を愛してます〟とか言う系のジョーダン、咲は大嫌いだから。  産まれたての赤子の頃から刷り込まれた愛情が全て泡となって消えた咲は、一生分の愛情の配分を間違えた。  本当にバカでクズだよな。  全部あげたら自分の分がねぇだろうに、身も心も人格も世界も、全部あげちまう。  そういうとこが好きなんだけども。  俺は咲の同類なんでね。  スマホをタップする咲の視線を奪いたくなって、テーブルをトン、とつついた。 「別に殴られて気持ちいいやつだけがドMってわけじゃねーんじゃね? いろいろあんだろ、なんか」 「んー? だって痛みを感じたのに意外と気持ちがよかったなんてことはありませんか? って書いてあんだもん」 「それ足つぼマッサージ的なやつじゃねーの? 普通速攻殴らせねぇよ」 「手っ取り早いのがいいの。瞬きしたら気が変わってっかもしんねーじゃん」 「女心も秋の空も裸足で逃げ出すわ」 「そ? つか俺よく考えたら感覚鈍いから痛みってあんま感じないんだったわ」 「パンチ意味ねーし。ってか見せて咲」 「ん」  適当に会話をする咲からスマホを受け取って、どれどれと画面を覗き込む。  まったくどこのどいつが俺の咲に悪い遊びを教えやがったんだ? 俺の許可取れよ。開発者見かけたら側頭部ブン殴るから夜道と通り魔には気をつけな。  ブツブツと脳内で吐き出す呪詛にはこれっぽっちの冗談も含まない。  こういう短気なところが未だに元ヤンだとからかわれるところだろうが、咲関連限定なので知ったこっちゃなかった。  スマホ画面には、目に痛いヘンテコなキラキラキャラクターが若干腹立たしいウィンクをしながら表示する咲の診断結果。 『突然のトラブルもまあいいかと納得しちゃうあなたは、ドM。争いごとを嫌い、相手に合わせてしまうタイプ。恋においても相手に尽くしてしまうでしょう! もしかして、そんな自分に快感を感じているのでは……? ちょっと意地悪な態度に興奮しちゃったり、痛みを感じたのに意外と気持ちがよかったなんてことはありませんか? 振り切っちゃえば苦痛も快感になるお得タイプ♡』 「振り切ろっかなって」 「振り切んなし」  おトクになるらしーよ? と面白そうにケタケタと笑う咲は、俺の冷めた表情が一切目に入っていないらしい。  いや入ってるけど気にしてねぇなこれ。  呆れつつもドMな咲を想像すると、少し楽しくなってきた。  一転してニヤ〜と口角をひねる俺は、そっと咲の手を取って手首の骨を親指で押しつぶすように強く指圧してやる。  グリッ、と骨の上を皮が滑る音がして、楽しげな咲の目がニンマリと細まった。  好きだろ? こういうオフザケ。 「ほらほら折っちまうぜ〜。手首逆に捻って手羽先みてぇにもいじゃおっかな〜」 「ウヒヒ、元ヤンの握力強い」 「気持ちくねぇの? ドMさん?」 「この程度じゃアタシ興奮しないわ」 「ブッ、なんでカマ口調」  グリグリ、ゴリゴリ。  エグい音を立てながら咲の手首を虐めるが、まるで効いた様子がない。  たぶんサドとしちゃつまんねーマゾだろーな。このクズ野郎がマゾな気なんかしねーけど、どこぞのサドにかっさらわれるよりだいぶいい。つまんねー咲バンザイ。

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