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05(side春木)

「舌? 舌ピ? 痛いの? 気持ち? ……三個とか最早自傷じゃね。飲み物ダバダバすんのかな、拡張したら」 「……。……って、ぁ」 「そんなら耳ルーズリーフみたいにしてよ。家畜が付けてるタグあるじゃん。あれでしこたま飾ってあげる。ほら、叩けば肉ってうまくなるらしいし」 「おいこらっ、返せって、おい」  むくれてまたストローをガジガジと齧ると、咲は通話をしながら俺に目もくれず俺のコーラを没収して自分で飲んだ。  なんでだよ。構ってくんねーのになんて取るのこの子!  焦って手を伸ばすけれど、ぐっと頭上にかかげて届かないようにされる。  サッサッと俺の手を避けて、見もしないくせに意地悪だけはやめない。  必死になっている俺が馬鹿みたいだ。  クソが。お前と遊ぶために予約調整してんの知ってんの? 知らねーだろ言ってねーしそりゃ知らねーかはいはいゴメンね!  それでも咲をなによりも優先する自分をやめる気もなければ、やめられもしない。  俺の独占欲なんて欠片も伝わらないものだから、咲はいつだってとんでもないことを言い出すもので。 「ん? 今から遊ぶの? ロックフェスあんの? この時期に?」 「っ、咲コラァ……!」  俺と遊んでるだろーが今ッ!  マジに泣くぞッ!  悔しさともどかしさから涙目になりかけて無理やりに怒っているような表情を繕う。  それでも咲は俺を見ていないから、俺の気持ちがわからない。  結局、俺はトモダチだから?  やっぱり身体繋げてるやつのほうに情が湧くわけ?  湧く情とか持ち合わせてんの?  なんだよ。  頭の中を支配していくドス黒い問いかけが、俺の友人ではない部分をほじくる。  浮かせた腰をドンと席に据えて、明確に咲の横顔を睨みつけた。  突然人で遊び始めて、飽きたら他へ行っちまうのかよ。このあとカラオケ行く約束しただろ? ライブセットルームがあるとこで遊ぼって言ってたじゃん。  咲は笑って「いーよ?」って言った。  ひでーよ。好きだよ。  このクズめ。愛してる。  最低最悪なクソ野郎なのにこの世で一番愛しい生き物だ。チクショウ。  震えてきた。  顔に憤りを張り付けたまま、でも内心で悪辣な泥を沸騰させる。 「あー……はいはい。じゃあ、そっち行くから。……いつ? さぁ? そのへんで遊んでて?」 「っ、……ん、……」  不満。不満。不満。  不満一色のこの顔。見えてます?  怒ってる。俺怒ってる。  怒ってる? 殺したい。  俺以外の誰かと話している咲が俺の前に奪ったコーラを置く。  キレ顔のままヤケクソ気味な気分でそれを手に取ると、中身は氷だけになっていた。……バーーーーカ。 「ん、ん。んじゃね」 「…………」  ようやく通話が終了して、咲は何事もなかったようにスマホを置いてドロドロのシェイクに口をつけた。  それから俺の顔を久方ぶりに直視してアハッ、と楽しげな声を上げながら頬をほころばせると、その澄んだ瞳に俺を映す。 「行かねーよ、バーカ」 「はっ?」 「あ~ウケた。クククッ、なにその顔。なーに? 心中前?」  咲はニヤニヤと口元に弧を描いたかと思うと、子どものように無邪気な笑顔でケラケラと笑い始めた。  ……行くって言ってたじゃねーか!  なにそれ、どういうこと? なんだよ!  全然噛み合わない。噛み合わないが、それだけで咲のしたことを全部理解する俺は、頭をめちゃくちゃにかき混ぜて「あ゛ーッ!」と吠えた。 「怒ってんだよアホっ。テメェ俺と遊んでるのによそ行く話目の前でするか? チッ、サゲるわ。咲ちゃんバーカ」 「怒ってねぇじゃんバカはハルちゃんっしょ。あんな泣きそうな顔して、捨てられた猫みてぇな。あははっ、バカウケる」 「は!? あぁぁぁ、クソッ! してねぇって! ってか普通ダチと遊んでて着信出ねぇだろ! 行かねぇだろ! お前マジっ、もう、嫌い! 死ね!」 「ククク、アハハッ!」  心底から唸っているのに、ついにわかりやすく声を上げて笑い始める咲。  俺が! 必死に怒ってるんだ!  バカ、聞けよ、笑ってんな、クソッ、あーもう、あーあーあー!  店内に響き渡る咲の高笑いとキレ散らかす俺の抗議に、周囲の客が微笑ましそうにクスクスと笑う声が耳をくすぐった。  恥ずかしい。バカ野郎。バカ、バーカ。 「気持ちいかった?」 「なに寝言言ってんの咲ちゃん」 「だってハルもマゾだろ? 参考までに試してみたのよ、イケズ。ククク」  咲は自分のシェイクを俺の前に差し出してコーラのかわりに貢いでくれたけど、俺にはシェイクの甘ったるい味なんてわからなかった。  取り敢えず、俺──野山 春木がわかったことは、息吹 咲野は間違っても、ドMではないということである。  このド鬼畜クズ野郎。  好きだよ、バーカ。  クソ。笑えねー。

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