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 コレクションの味がわからない外野をさりげなく追い払ったサトウさんは「俺は咲くんのが好みなの」と囁く。 「好みって。くく、俺も酒は詳しくないのに。まぁ酒なんかって言うヤツとダンボネ飲みたくはないかもだけど」 「さーどうかなー? けどホント、咲くんは好み。イケメンでスタイル良くておじさん羨ましいねぇ」 「んふっ、今度はサトウさんが褒め殺しなん? おじさんって歳じゃないでしょ。カッコイイし全然イイカラダしてんじゃん」 「そりゃ頑張ってますから。腹筋触る? 割ってるよ?」 「なら俺のも触る? バッキバキ」 「わーお」  シャツの上からベルトの縁の際どいところをさすると、耳元で「なぁ、本気になってきたんだけどいい?」と吹き込まれた。  態度だけはストレートなのに、ハッキリした言葉は言わない。  そのくせ事前確認はこうしてとって、あとで渋るとちゃんと聞いたよなと責める。  悪いオトナだわ。  全部わかってて「なにが?」と冗談だと思い込んで笑うエサを演じる、俺も。 「高価なシャンパンを飲めるようになるとさ、見た目だけじゃなくて、中身がおもしろいキレイな子と飲みたくなるんだぜ」  サトウさんは今夜の夕飯を決めたような浮ついた笑みを浮かべて、俺の髪をスル、と触った。 「あはは、なんだそれ。嬉しいけど、そういうのは女に言ってあげてよ。サトウさんモテるでしょ?」 「当たり。モテるよ? だから咲くんを女にしたいなーって思うわけ」 「ぶっ、性転換しろって? まー理にかなってるけど、ギャグだなぁ」 「んー……ダンボネ取ってくっから待ってて?」  ギャグだなぁ、という言葉に対して否定も肯定もせず毒気のない笑顔で煙に巻き、サトウさんはパントリーへ消えていった。  他の仮面たちからの視線もいくつか感じながら、銀紙に包まれたボンボンを解いて食べる。  これは今夜は俺をご指名臭いなー。キャーウレシー。  それがアヤヒサのツレの役目ならやるけど。ゲロったらごめんね?  ちゃんと、やる。  得意だから。  アヤヒサがそう振る舞えとねだるなら、俺は三分の一のハズレくじを引いた生け贄として、仮面のオモチャになってやる。 「マワされんのは久々だなー……わかってんの? 俺のカラダ」  溶けたチョコレートの中から溢れるウィスキーで喉を焼き、親指を唇の割れ目に含んでペロリと舐めた。  視線をやるが、返事はない。  ニーに構われ他の仮面にも話しかけられ、ヨソイキ・モードになっているアヤヒサロボは、俺が今夜の生贄指名された臭いことを知っているのか知らないのか、俺のほうを見てはいなかった。  これだからつまらないのだ。  イジメがいがないよなぁアヤちゃんは。  俺は約束通りルールを守ってアヤヒサにご褒美を与えているというのに、アヤヒサは最低限のルールを守らない。  それだとアンフェアじゃん? 俺にとって演技をしながら抱かれるって、恐ろしく労力を使うことなのにさ。  淫乱のフリはできる。  誰かの真似を臨機応変に。  声と顔と呼吸を強引に作る。  だけど心音は、体温は、難しい。  そして直接触られなければ勃起しない。後ろに挿れられると萎える。演技じゃモロバレだ。俺のカラダはそうなのよ。  一人相手でも疲れんのにこの人数相手にダッチワイフやれとか、クスリでもくれないとムリかもねー。鬼畜レイプなら快感ゼロ展開でワンチャンあり?  ってのも聞いてねぇし。  ロボだからテレパシーを電波で受け取るかと思ったが無理らしい。  興味をなくして、ふいと視線を外す。  すると場違いなほど場馴れしていないせいか数人の仮面に囲まれていじられているイチが、いっぱいいっぱいだ、とでも言いたげな顔でこっちを見ている。  あれで遊ぼう。  新しいおもちゃでどう遊ぼうかを考えていた俺は、アヤヒサが俺の背中を見つめていることなんて気がつかず、それごと興味を消して別の遊びを考えていた。  アヤヒサはあちこちパーティーに出る。  付き合いでいろんなことをする。  食事会だってしょっちゅうだ。  道楽三昧に見えて、未だに先頭で組織を率いている。  市場の動きを逃さない。だからいそがしい。  でも、曰くそれは俺の願いを叶えるための仕事であり、組織であり、パイプであり、金であるらしい。  自分以外を理由にしないと動けない。  誰かのためにと理由をつけないと、新たな行動はできない。 〝利益を上げろ〟と命じられれば社長業務に精を出す。やりたいかは関係ない。  だからアヤヒサはそういう用事の単語の前に、つまらないだとか、くだらないだとかをつけるのだ。  部屋に入った時に紹介したっきり俺は好きに泳がせて放置して、自分はそのカスみたいな外交に従事している灰汁の強い男は、なにを考えているのやら。

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