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09
ショーゴは理想の夢。
タツキは崇拝対象。
キョースケは金ヅル。
うっかりひっかけてそのままズルズルと各々の勝手で懐いてきた他のセフレたちとは成り立ちが違うから、アヤヒサに求められていることが、よくわからない。
わかっていればそれをぶち壊すのに。
俺にアイジョウを向ける理由を、ひとつひとつ潰していって、チキンレースを開催してあげるのに。
鉄仮面と違って、イチはわかりやすい要求をもって目の前にやってきた俺を縋るように見つめている。
助けてほしいって? 俺と大して歳も変わんないんだしもちっと頑張れよ。
にっこりと笑ってやると、助かったとばかりに安堵した。
「ね。そんなにいじめるとかわいそうだろ、その子。泣きそうじゃね? 小動物みたいでかわいいのはわかるけど」
今日の俺は優しいからさ。
ちゃんと助けてあげちゃう。
イチみたいなタイプをからかっている連中だから敢えて眉の困った温い笑顔でおずおず声をかけると、機嫌よくノッてきた。
「あはは! いちいち反応が面白くてさぁ。妬くなよ咲くん。だって佐藤さん押しのけて君を取り囲んだりできねーだろー?」
「囲まれたりしたくないよ、怖いって。まぁその子みたいなのがいると構いたくなるかもだけど。助けて〜って、な?」
「えっ、お、俺は……」
「巧くんは中村さんの学生時代の後輩らしいけど、もっと下に見えるよねー」
「コイツ昔からなよっちくてさー。のろまだからいじめられてたの、俺がいっつも助けてやってたんだぜー」
「ふーん? ナカムラさんはやさしーんだね。アニキって感じでいいなぁ……今日もパーティーに連れてきてあげてるくらいだもん。いい先輩だわ」
誘うように喉の奥で笑って視線を飛ばすと、イチを囲んでいた一人がケラケラと笑って俺の隣に座った。
タクミくん? だっけ。
イチでいーよな? いーや。
ナカムラさんと呼ばれる派手な赤いアイマスクを着けた男は、イチの肩に手をかけてニィっと口角を上げた。
「もちろん。だって俺、優しい先輩だから。なぁ?」
「っ……は、はい……先輩は優しいですよ」
「そうだよ? かわいい後輩がパチにハマって押しかけたら財布ごとあげちまうんだぜ? 自分の男気に泣けてくる。コイツ手癖悪いけど甘ったれだから、咲くんも仲良くしてやってよ」
あらーそんなに凶悪なオーラ出しちゃって、こわいこわい。
他の仮面は心得ているのかなにも言わず、哀れな子羊を見るような慈悲と嘲笑の目でイチを見ながら笑う。
カタカタと身を震わせるイチは、誤魔化すように引きつった笑みを浮かべて酒を煽った。
ふーん。ギャンブル中毒の盗癖ね。
大方ナカムラさんの財布をスッたかガメたかなんにせよ盗ったんだろう。
それを弱みにここへつれてこられたと。
含みのある言い方だけど特に隠している様子はないから予想しやすい。
真偽はわからないけど馬鹿だなぁ。
自分に非があっても弱みにするのはダメだぜ? か弱いボク等はなにがあっても開き直らないと。
図太いクズ筆頭としてむふふと笑う。
手に持ったグラスの中身を飲み干してやおら立ち上がりちょいちょいと手招き。
するとイチはおっかなびっくり俺に近寄ってきた。素直だね。
「いいぜ、仲良くしよっか。俺も一人じゃつまんなかったとこ。正直パーティーって慣れてねぇし……」
「あ……えっと、ありがとう。俺も、慣れてないのは、咲くんと同じだよ」
「オソロ? よかった。じゃー景気づけにダーツでもどうでしょう」
「や、やったことない。下手くそだと思う」
「だいじょーぶですー。俺も大してうまくねーし。外しても笑わないでね?」
「ふっ、笑わないよ」
ニヘ、と緩く笑ってやる。
子ネズミのように路頭に迷っていたイチは、ようやく恥ずかしげに笑顔を見せて壁のダーツボードへ歩き出した。
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