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「あ?」
「咲は、一位を狙わないのか? 言い出した口じゃないか。欲しいものがあるなら個人的に聞くが」
「うんにゃ。なんにもねぇよ? 暇つぶしに誘って暇つぶしに提案したら暇つぶしが通っただけ」
俺がお前の腕時計なんか欲しいわけねぇだろ? 欲しけりゃ腕ごと切りとってでも縊 りとるわ。
って感想は脳内で付け足した。
外交事業はつまらない。
知ってるくせになに言ってんの。
相変わらず鉄仮面でボケをかます。
真顔でボケるところは気に入っていても、今は気分じゃない。
「はい、俺百二十点ね」
おー、と場が沸いた。
ナカムラさんやるねぇ。じわじわとカモの接待をやめ始めてる。
目下最下位のイチがあわあわ慌てているのがおもしろい。なんでも命令されると困るんだろう。
ナカムラさんの次が俺の番。
アヤヒサは俺の返事に頷いて以来、なにも言わずにそばで控えている。
面白いほうへ、なぁ。
アクティビティアクティビティ。
次は咲くんだよ、と俺を呼ぶ声がするから、俺は笑顔で応じる。
「うーし俺も遊んでくるかなぁ」
「ん? 本気を出すのかい」
「嘘だろ。一位なんかに興味ねーわ」
白けつつ矢を三本指の間に挟む。
アヤヒサから離れて的の前に立つ。
そして投げる。
「そーい」
三本同時に、テキトーに。
「は」
「ぶっ、咲くんさぁ、それは無理だろー?」
ガシャンッ、と三本の矢が一緒くたに音を立てて前方へ飛んだ。
アヤヒサは無表情からほんの少しだけ驚いた声を上げたが、それをかき消すようにサトウさんがケラケラと楽しそうに笑う。
三本同時投げなんてするもんだから当然一つも当たらず、矢は落ちてしまった。
えー俺本気だったのに。
世知辛いっすねーあっちゃーサガる。
「うわー当たったらかっけーと思ったんだけどダメ? うーこれはゼロ点。ちょっとショックだなぁ」
ムーと唇尖らせてから大げさに肩をすくめると、ニーにあははと指差して笑われた。
辛いわ。不登校なるわ。学生じゃねぇけど。ハートがブレイクしちゃったんで。ジョーダン。
あーあ。
俺の最下位が確定して、カナシイなぁ。
陽気な空気が流れる場で、俺は面白おかしく的の前から離れる。本当に決まれば面白かったのに。ジョーダンジョーダン。
適当に投げて全部刺さったら物理的におかしいので、やむなし。
ま、残り全部雑にやった。
俺がビリ確定の流れだから、イチがどんまいと手を上げてきた。
その手にパシッと手を当て返して、あははと笑って隣に座る。
次はアヤヒサ。
その次がサトウさんで二回戦は終わり。
なのにダーツボードに視線をやるより早く、ダンッダンッダンッ、と矢が突き刺さる音が聞こえた。
「えっ」
隣のイチが早々と驚いた様子で目を丸めて、ダーツ板を見つめる。
パパラーと派手な音のあと、矢をもぎとってダンダンダンッとまた突き刺さる。
「百八十点 かよ、黒さん」
シンプルな白仮面のシロさんもびっくりしている。
なににびっくりしているのかの意味は、イチとは違うんだろうけど。
黙ってさっさと最高得点を取ったアヤヒサは「そういう気分さ」と素知らぬ態度で流した。いや一回戦の最下位がまさかのトンパチとか怪しいしバカじゃね。
そこまで気が回らないほど動揺することでもあったの?
クツクツと喉の奥で笑う。
「うへぇ、パーフェクト? 黒さんやっぱエグいなぁ。この次やんのプレッシャー辛過ぎんだろこれ」
トリのサトウさんがべーっと舌を出して、苦々しい表情でダーツ板の前に立った。
まったく。よく言うぜ。
続く嘘つきの悪い大人は、当然のように最高得点をとったのだ。
トップが二人って嫌がらせだわ。サキくんカワイソー。
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