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14(side理久)

 ──あぁ、失念していた。  自分の愚かさに嫌気が差す。  機嫌の良し悪しの起伏が殆どない咲が、今日はほんの少し機嫌が悪かったこと。  わかっていたのに同伴パーティーで浮かれていたせいでこのザマだ。  一周り以上年下のとんでもない気分屋。  美しさを隠れ蓑にした外道で冷淡な悪辣王。  スッ、と膝を折る。  両手を床に当てて、深く頭を下げた。  額に当たる床が冷たい。  こんなことを、決してこの権力者たちの前でしてはいけない。常に毅然、整然と、感情を出してはいけない。誰かのワガママに安易に乗せられるようではいけない。  息吹 咲野が、私の弱みだと知られてはいけないのに。 「……咲はパーティーに来てくれという褒美の他、私の同伴者として相応に振る舞えというワガママを守ろうとしているのに、利己的な理由で中断をさせることを謝る。本当に申し訳ない」  そう。命令されたのだから、従わないなんてことはできないのだ。  ロボットは、知恵をつけ、性能を上げ、人を超え、驕り、いつしか勘違いする。  人を思うがままできるのでは、なんて。  そんなSF小説を読んだことがあるが、なんて愚かなのかと侮蔑の目を向けた。  お前たちはもういらないと、捨てられればただのガラクタ。  人に必要とされてこそ成り立つ存在。  今ここにあるのはあなたに必要とされるためだけの権力で、立場で、コネクションなのだから、私があなたの命令より優先することなんてない。  だと言うのに。  仮に全てが無に帰すとしても、私はここで頭を垂れて平伏する。  周囲が驚愕に息を呑む。  ほんの一瞬の静寂。誰もが動くことを躊躇していたつかの間の時間。  そっと上げた視界の中で、咲はつまらなさそうに自分の手をしげしげと眺めながらうーんと首を傾げていただけで、私のほうを見てもいなかった。 「……ん? あぁ、なに? 終わった? じゃ、行こ」  怒りも悲しみも、なにもない。  日常的で平坦な声。  自分でけしかけておいて、誰よりも興味がない。 「あぁ、行こうか」  私は何事もなかったかのように立ち上がり、先ほどと同じように咲の手を引いて出口へ歩く。  有象無象の心情やその後なんて知らない。どうでもいい。  マンションの玄関から出て廊下を歩いている時、握っている手の体温を肌に感じながら、ああ、とようやく合点がいった。 「私の間違いは、真っ黒な手袋を用意しなかったからか」 「あは、おせーよ?」  今更正解を当てたところで、王様は不忠なシモベを許してはくれない。  それを理由とした仕置きで、ツケを払わされるのだ。

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