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 俺としては余興のこれも、残るはサトウさんからの罰ゲームだけだった。  負けたらなんでも言うことを聞く、なんてありがちすぎて面白味ねーけど、意外とサトウさんはノリノリだ。  無警戒に佇んで小首かしげながら次の指示を待つ。  せめて面白いことでありますようにと願いながら。 「じゃ、俺とあっちの部屋に行こうぜ? ちょっとセンシティブなお願いだから、ドリンクもあるし静かなところで。いいだろ?」  なんでも言うコト、聞くんだからさ。  そう言ってサトウさんは人の良さそうな笑顔を浮かべ、部屋の隅にあるドアを指差した。  へぇ……気が早いな。  他の仮面はそんな素振りまだ見せてないのにさ。  なにそれ気になる、なんなんだろ、などとカモたちが異口同音に尋ねる。  当事者の俺は当然にっこりスマイル。 「もちろん」「咲」  けれどスマイルな俺を、またしても黒い仮面が横槍を入れて咎めた。 「お、黒さんも参加すんの? 珍しい」 「いいやちょっとね。……咲、もういい。私のわがままが気に食わなかったのだろう?」  アヤヒサは涼しい顔を崩さずに俺の手を取って、これ以上の深入りを許さないとでも言うように、周囲にはわけがわからない切り出し方で通行止めをした。  グイ、と力強く手を引かれる。  出口に連れていく気かよ。言っただろ?   大人の建前のツケは高くつく、って。  アヤヒサの引く手に逆らって俺は留まり、重ねて小首をかしげる。  そこでようやく僅かな焦りを表情に出すロボが、動きをとめた。 「咲?」 「さぁ? 知らないね。わがままってなんのこと? 説明してよ」 「……あとでたっぷり懺悔をするから、今はここを出ようか」  後回しにされてする返事なんかない。  黙って掴まれた手を静かに払うと、アヤヒサは周囲を振り返る。 「皆様方。せっかくのパーティーに水をさしてすまないね。私たちはここで退室するが、構わず遊びを楽しんでほしい」 「ふーん……? 面白そうな関係なのに、お二人とも帰んの? 俺はだいぶ惜しいんだけど」 「やーまぁ流石の佐藤さんでも黒さんに喧嘩売れないでしょ」 「残念ながらなー」  ここでしたくない話。  アヤヒサは、外交現場では弱みを見せたくないらしい。それを知ってか知らずか、退室を許可する権力者たち。  勝手に甘やかしてんじゃねぇぞオイ。  そんなことするから調子に乗っちゃうじゃん、このガラクタ野郎がさ。ね?  とりあえず円満退室、なんてつまらない空気で満たされていく場。  それをぶち壊したくて立てた親指を冷たい床に向ける。 「舐めてんの? お前」 「っ」  抑揚のない冷えた声。  アヤヒサは目を見開いて硬直した。  表情を刹那、消したからだ。 「今すぐどうしてこうなってなにを間違ったか説明して、人にモノを頼む態度を取れっつってんだよ?」  できないならいらないからそこの窓から空飛んで? そうしたらお前の存在ごとツケはキレイさっぱり忘れてやるよ。  そう言ってにっこりと笑いかける。  めちゃくちゃにしてやるって言っただろ? あれ言ってなかったっけ。どうでもいいや。あはは。  ご褒美タイムは終わりだ。  ルール違反にフルタイムを捧げるほど、俺は真面目じゃないんでね。

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