146 / 306
19
剥き出しの肌が他人の体液で汚れていて、血や精液が付着するのも構わずに抱く。
髪をなでながら鼻腔を擽る吐き気を催す匂いも気にならない。
「よぅし、オソロじゃん、アヤヒサ。汚くて醜い。えらいえらい」
「そうか、光栄だ」
「服はどしたの?」
「ん、汚れたから……捨てられたな。また新しいのを買わないといけないよ」
「そっかぁ。一緒にショッピングする?」
「是非に。私の新しいスーツを咲に選んでほしい。真っ黒だって、着てみせる」
「くく、おバカちゃん。そういうのはいらねーよ。お前に似合ってたし、あの日のシルバーグレー。俺は嘘を吐かない」
「知っているとも。ひと揃い、買い直そう……」
背に腕を回すこともできないアヤヒサが、スリ、と頬を擦り寄せる。
弛緩した体を支えると、割れ目から溢れ出た白濁液が大腿を伝った。
「お仕事サボっちったねぇ」
「咲が突然なにを言い出してもいいように……あの日から向こう一週間は、なにも予定を入れずに仕事を片しておいたさ……私はあなたの希望を、なんでも叶えるよ」
「ワオ? 最高に馬鹿らしいわ、キモイ、かわいくねー。何度やっても、折れねぇの。壊れねぇの。気持ち悪い。クソうぜぇ」
力を込めて、へし折るように強く抱きしめる。傷だらけで憔悴したコレを、もう死んでしまえって最低な気持ちで。
そんな言葉と行動を取りながらも、声音は至って楽しげなものだ。
「咲、私は何度でも暇つぶしに付き合うさ。そうやって私の、私たちの好きな理由を殺して、嫌いになる理由をチラつかせても……咲が咲なら、それは意味のない行為だ」
「ン、そう? なぁアヤヒサ、深読みするのはお前の悪い癖だぜ」
「あなたは自身のことを語らないから、私は読まなければならないだろう?」
そう言われるとそうかもしれない、と思う。
確かについさっき、俺が本当はちっともイラついてなくてアヤヒサの失言を許していたことも気がついていた。
本当に、偉いね。
この耳朶を噛みちぎってやりたい。
「それがダメなら……もう少し、本心を教えてほしいものだな」
「あはは。わからないものを教えろとか、お前無茶なこと言いやがんね」
「人を理解しようとする前に、咲は、自分を紐解かなければ。あなたのその傲慢なくせに心底自分に無関心なところは、欠点だな」
「言えてる。欠点以外ねーよ」
「……私は、あなたを愛する他の生き物が、全てこの上なく憎らしいが……別に構わないんだ。あなたが他の誰かを愛しても……」
「うん?」
頭のいい人間が言っていることは、俺には大抵わからない。
説明を省きすぎる。そのくらいわかるだろ? ってスタンス。感情の四則演算がドヘタな俺にはてんでわからない。
人を貶したと思えば愛を囁き、されど許すと。理屈に合わね。
ハッハー、疲労困憊の上に怪我をしてるから多少派手に壊れてんのな。
ま、元々潔がよすぎるくらい素直な狂い方をしているのがアヤヒサだ。
興味の薄い視線で眺めていることにも気付かず、アヤヒサは更に続ける。
「しかし、誰を選んでも、変わらずそばにおいてほしい。あなたに尽くすことを、許してほしい」
「あぁ? そういうところだぞテメェ。ヘドロ吐きそう。そゆとこキモい」
俺は俺の価値に合わない行動や感情を向けられると、それを破壊したくなった。
だからアヤヒサはいつも自殺している。
俺の首筋にキスをして、舌を這わせて、カプ、と甘く噛みつき、言葉を紡ぐ。
ともだちにシェアしよう!