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18※微
「……ひ、……、………」
護身のために適度に鍛えられた長身の体躯が意味をなさず、声もあげずに組み伏せられてピク、ピク、と痙攣している。
俺は俺でその光景をお構いなしに他人と頬を擦り合わせ、戯れるようなキスをした。
「んっ……」
「ふふ」
「はぁ……ぁ、んぅ……」
唇で、舌で、空いている手で、肌を刺激しながら適当に味わう。
別段キスが好きというわけじゃない。
手持ち無沙汰な間や口寂しさを埋めるのにちょうどいいから、誰とでもするだけ。
セックスは性欲の処理と俺が知る愛情の在処を探す実験方法。
俺を抱くことで生まれて消えたそれを、俺が誰かを抱くことで同じように生産できるのか、という実験だ。
結果はほぼ確実に数年前の時点で出ているので、今はもうただの性欲処理と眠りやすいということ。ドアが開いた時の生贄を置いておくこととぐらい。
チュク、と舌を吸い上げて適度に呼吸をさせ、一呼吸のあとまた唇を覆う。
膝で股間を擦り引ける腰を押さえる。
唇を解放し体を離すと、男は欲情した瞳で俺を見つめた。
「んー……下手」
「はっ、違うって、お前がうまいのよ」
うまい? 俺はさほどだと思うけどねぇ。反応見ながらやってるからなぁ。
目は合っている。
とっくに。
俺を視認している。
俺の命令で見ず知らずの男に犯され、腹の中をドロついた濃密な精に溢れるほど満たされ、命すら奪われかねない状況だ。
身体中をオモチャにされていてもアヤヒサは抗わない。俺の命令に従い男に使われている。
なのに俺は俺で、別のどうでもいいやつと戯れている。
それをアヤヒサは見ている。
惨めな姿で。
エグい肉茎がじゅぽ、と退き、広がりきって赤く熟れた媚肉の割れ目から、ネバついた白濁液が溢れ出す。
それでもアヤヒサは相変わらずの無表情で、ぼう、と混濁した瞳で見ている。
あぁ、かわいそうに。
俺と出会ってしまったがために。大げさか? あはは。
「……さき……」
ザラついた埃っぽい声で、アヤヒサは微かに俺を呼んだ。
へぇ、流石のロボも電池切れか。
俺はクソガキだからそんなことは許さないけど。癇癪起こして床ローリング。は、しない。
でもほら、いつもの平静を崩さないお澄ました顔。
それをめちゃくちゃにしてやった。
矜持もタテマエもオトナのなにかも無惨にも崩れ落ちている。
窶れて傷だらけのオモチャ。仮面を被って笑っていた権力者が見る影もない。
頭越しに、可哀想なアヤヒサが愛くるしく思えて、にっこりと笑いかけた。
この感情は紛い物。
アヤヒサ。俺はね。
お前の崇拝する俺はね。
なんでそばにいるのかわからない騎士を不思議に思って、ただ〝なんとなく〟で、墓場に生き埋めにしたんだよ。
「アヤ。おいで。迎えに来たぜ」
蕩けそうなほど甘い声で、とびっきりの笑顔と共に手招きしてやる。
よくもまぁこんなに耳が取れそうな気持ち悪い声が出せたもんだ。舌大丈夫かな。腐ってね?
「あぁ、それじゃあ、許してくれるんだな……」
ノイズの入った言葉を吐きながら、重い体をどうにか引きずりあげて、アヤヒサが立ち上がる。
俺はアヤヒサを迎えるために、ハリボテのように立ち尽くした。
本当に傷だらけになった。打撲痕だけではない。焦げ痕までついている。電気? 火? どっちでもいいか。うんうん。
似合ってんじゃん。そうでないと。
似合っているということにしておかないとアヤヒサがあんまり哀れだ。
なにかと理由のない理由をつけて傷つけてみてしまうのが暇つぶしみてーになってんだ。
俺の最低なクズらしい性質。
澄まし顔のアヤヒサなんて面白くない。
こっちのほうがずっと似合っている。
だから熱い抱擁をかましてやる。
「アヤ。アヤちゃん」
「ちゃんと、行くとも。咲の声を、聴き逃したりしないよ」
「偉いね、偉い。俺のそばにおいで」
「ぅ……れし、い……」
ふらり、精一杯毅然とやってきたアヤヒサは、当たり前のようによろめいてやってきたから、俺は広げた腕で生花を愛でるようにとくと優しく抱きしめた。
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