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01(side今日助)

「……え、と……どういう状況だ……?」 〝ちょっと来て〟とシンプルな呼び出しを受けた俺は、もうすぐ日付も変わるという頃、自転車を走らせて一駅向こうの咲のマンションにやってきた。  いつものように開けっ放しのカギ飾りがついたドアを開き、人の気配の薄い冷たい廊下をのこのこ歩いて咲の寝室へ向かう。  そして寝室のドアを開いたところで、冒頭のセリフというわけなのだが……。  俺は口角を引き攣らせてせめてと下手くそな愛想笑いを浮かべ、首を傾げて状況を尋ねた。  それに答えるは、ボクサー一枚でダブルベッドに腰掛け、キョトン、とこちらを見ている色の薄い男。  そんな顔でもドキリとするほど綺麗で、生唾物のいいカラダをしているけれど、そんなことは一先ず置いておこう。  問題は、その向こう側のベッドの上。  スヤスヤと眠る全裸の女性が、彼の背後でチラついているということなのだ。 「は? なにが?」 「いや……その、えっと……俺はセックスするために呼ばれたんだよな……? その、後ろの女の子は……?」 「あぁ、今のカノジョ? ってやつ。好き好きうるさかったから勝手にしなってコトで暫定ね? んまそのうちジョーダンに飽きて逃げるっしょ」 「こらっ、そんな野良犬みたいに自分の彼女を……! じゃなくて、いや、それなら俺はいらなくないか?」 「え? キョースケとカノジョは違くね?」  いやいや。なに言ってんのコイツ、とか言いたそうな顔をされましても……! 「あのな、咲。同じじゃないけど、違うくないし、彼女がいるなら俺を買っちゃダメなんだよ。わかるか?」  ゆっくり言い聞かせたのに、目の前の男──もとい咲は「わかんね。なんで?」と本当に無垢な瞳で不思議がった。  咲の思考と俺の思考が全く合致しなくて、咲が言葉を発するたびに俺の苦笑いがピキピキと音を立てている。  しかしなんとか感情を抑え、ふぅ、と深く息を吐いた。  れからうう、と頭を抱えて、改めて咲に向き直り、小声で、されど必死に訴える。 「浮気はよくないだろ……っ!」  だから!  なに言ってんのこいつって顔をやめなさい!  んんん……ッ、と伝わらなくてどうしょうもないもどかしい感情が頭の中をぐるりと回って俺は唸った。  鬼気迫る形相で訴えたのに咲はハテナスタンスを崩さない。  おそらく本気で浮気観が特殊な層を形成しているのだろう。酷すぎる。  しばらくプルプル震え上がる。  それからはぁ、と吐き出した特大のため息がムーディな寝室に霧散した。  恋人がいるのに商売男を買ってもよしとはどういう理屈なのやら。  モラルってもんがない。  わかってはいたが、俺の恋する人は痴情のもつれとは大親友である。  破綻を恐れず関係の継続に霞の力も使わないのだから、浮気なんてちびっとも気にしないのだ。  俺の呆れた心境なんて少しも届いてない咲は、くぁ、と欠伸をしてから立ち上がり、そういうオブジェだとしても頷ける立ち姿で足を動かして俺の前へやってきた。

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