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05(side今日助)
問題は根本に戻ったが時間は待ってはくれない。観念した俺は、咲の首筋に泡まみれの手を伸ばした。
「ン……」
する、と首元を擦ると、咲はくすぐったそうに声を漏らす。
それにいちいちビクビクと怯えるのは俺のほうだ。
人より白くシミ一つない咲の綺麗な肌はところどころ古そうな傷跡があるものの、ぎっちりと引き締まった美しい肉付きをしていて、アホみたいだけどドキドキしてしまう。
ムキムキってわけじゃないんだぜ。
太らないし筋肉がつきやすいんだけど、咲は体が大きくなるのを嫌がるからさ。
でもほんと無駄がないっていうか、そういう職業でもないのに整ってる。
単純にスゲースタイルがいい。
元々アクティブで、プラス思い出したようにトレーニングするせいだろうな。
人形みたいに姿勢とバランスがいいから日常で体を使えているんだと思う。
流石に交通費節約のために自転車で走り回ったりサークルの助っ人バイトをしたりなにかと動き回る俺よりは細身だ。
好き嫌いはないが偏食な咲が心配で、たまにうちでシた時ご飯を食べさせている。
……。とかいろいろ考えて現実逃避してるけど、うん。あかん。
現実から意識をそらそうとするがちっともドキドキが治まらず、咲の肌をなでる自分の手のひらが熱を持っている気がした。
普段セックスをする時、俺が咲に好き勝手弄ばれて玩具にされることはよくある。
でもこういうふうに俺がベタベタと身体に触れることはあんまりない。
「……痛くない、か?」
「ぜんぜーん」
やっぱり恥ずかしくなる俺だけど、ゴシゴシ、と間違っても爪を立てたりしないよう丁寧に咲の体を擦っていく。
よしよし。平気さ。俺は商品で客の体を洗うのは仕事だから、傷はつけないようにちゃんとゴシゴシ。
おう、意外と胸板がある……腹筋も割れてる? のかな……? うん、結構硬いな……そして腰が細い。うん。俺、男の体は自分より少し華奢なくらいが好きだな。ちょうど咲くらいの……。
……。ダメだ。下心が乱舞してる。
不埒な思考をおくびにも出さないように跪いたまま、黙々と仕事を全うする。
上半身を洗い終えて触りづらい身体の中心を避け、スラリと長い足に移った。
こんなにステキな咲の足だけど、これに蹴られるとすごく痛いんだ。
あと足の指が自由に動く。ぁ、足だけでイカされたりしたこともある。
指の股でこう、うん。テクニシャン。
自分でも変な話だと思う。
元彼は暴力的でそれが嫌だったのに、なんで咲に乱暴されるのは大丈夫なんだろ。
いや、酷いやつって思うんだけどな。人の扱いが雑で気まぐれで他人の感情を理解できない非常識なクズだってわかってるし、そこは全然擁護できないと思ってるんだ。
なのに咲のことを考えながら咲の足を洗っていると、その肌にキスしたくなる。
たぶん理由は〝咲は俺になにも求めないから〟……かな。
金をせびるためでも服従させるためでもなにかの報復でもなんでもない。俺に与える全てが咲の意思。
例えばさっき俺がそんなことをするなら帰ると言っても、咲は引き止めないのだ。
嘘と下心がないから。
自由にさせてくれて、俺を俺のままでいさせてくれるから。
だから咲がいいのかもしれない。
思わず「ははっ」と声を上げると、ぬる、ぬぢゅ、と泡と肌が擦れる音とシャワーヘッドから垂れる水音が反響している空間に、俺の吹き出した笑みが混ざった。
咲は首を傾げる。
傾げるだけで触れてこない。
不思議な人だ。自分勝手で好きになるところなんてほとんどないはずが、気がついたらドツボなんだぜ。
勝率の低い恋だが気分は上々。
……。もしかしてこうやってドブにハマっていくのかな。手遅れだぞ、俺。
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