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01(side翔瑚)

 月に二、三度の逢瀬が月に一度程度になり、しばらく会えない日々が続いていた時。  寂寞に身を焼かれる夏が終わり紅葉が美しい錦秋に、なしのつぶてが不意にポンと返ってきた。  だから一ヶ月ぶりの密な時間を手に入れて、バカな俺は浮かれていたのだ。 「はっ……」  ゴツン、と鈍い音を立てて、額をドアのポケットに打ちつける。  力の抜けた身体は、そのままズルズルと緩やかに崩れ落ちた。  事後特有の倦怠感が重りのように押し寄せる。  ぼぅ、と焦点のなかなか合わない瞳でドアとシートの隙間にたまった砂埃を眺め、乱れた呼吸を落ち着けようと努力する。  革張りのシートに吐き出した自分の白濁がトロリと流れ、沈みこんだ上半身に纏うくしゃくしゃのシャツに、じんわりと染み込んだ。 「……っ、……ん……」  呆けていると、胎内を犯していた肉茎がズルリと出ていった。  ゾワ、と肌が粟立ち、次いで中の粘液があふれ出しそうになって、慌てて拡がった尻穴を引き絞る。  意識がはっきりし始めると、自分がうつ伏せで腰を高く上げて臀部のみを露出した淫らな男だと気がつき、恥ずかしくなった。  気だるい身体をどうにかのろのろと動かして、乱れた服装を整える。  助手席に座る男は俺が惚けている間にそれほど乱れてもいない服装を整え終えたようで、汗の滲んだ髪をかきあげて、身体の熱を冷ましていた。  下げきった窓のヘリに腕をかけ、なにを考えているのか読み取れない顔で頬杖をついている。  ついさっきまで俺は、その下げきった窓から自分の喘ぎ声が外に響かないよう自分の腕に噛みついて耐えていたというのに。  狭い車内で乱暴に抱かれ、身体をあちこちに打ち付けたせいで少し痛い。  どうにか身奇麗にして、運転席に座り直す。  ふとカーナビの時刻表示に目をやると、とっくに昼の十二時を過ぎていた。朝の十時に待ち合わせたのに、だ。 「車ン中って狭いからヤりにくいわ。お前、頭ぶつけてたろ」 「痛っ」  パチッ、と赤みを帯びている額をデコピンされた。  涙目で見つめ返すと、にんまりと笑う美しい男──息吹咲野。  痛がる顔を見ようと首を傾げる姿が、やっぱりたまらなく好きだった。  俺が面食いなのか恋愛のなせるマジックなのかはなはだ疑問だ。  一番好きなところはたぶん、人の目を気にしない強いところ……かな。  咲は孤独でも心底構わない。  そう見解する。  咲が俺を好いてくれているなら一方的な関係なんて嫌だけれどそうでないのだから、見返りを求めて愛を向けることや尽くすことは、恋を免罪符にしたエゴだろう。  ダッシュボードに隠しておいた十時半からの映画のチケットは、胸の中にしまって。  見たかった映画を咲と見ようと思った。  事前に告げると他の誰かと見てしまうかもしれないから、サプライズで、なんて考えてしまった。  セフレなのにセックスよりもデートに行きたがる俺をいつも不思議がっているから、彼の思考に俺が不可解に映っていることもわかっているのに。 「んで? お前は俺を呼び出して、コレ以外になにさせようと思ってたわけ?」 「あ……いや……、……大丈夫だ。咲の行きたいところへ一緒に行こうと思っていた」 「へぇ」  俺の行きたいところね、と行きたいところを考え始めた咲に、曖昧に笑ってハンドルに痛めた額をそっと落とす。

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