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「どしよ、わかんね、ショーゴ? じゃなくてオマエ。痛い? 苦しい? 辛い? 俺の心音と体温は不快? 救急車呼ぶ?」
「はっ……咲、ぃ……咲、ふっ……うあ、あああ……っ」
「あ……お、れは、なにをすればいい? ん、と、そう。俺、寂しいってわかったぜ? オマエの言ってることちゃんとわかった。会えないと残念だ。オマエに会えないと寂しい。や、でも嫌がるってわかってるから、恋人になってってことじゃねーよ? オマエが俺のこと忘れるのも俺のこと嫌いになるのも全然大丈夫。ただの報告っていうか、まぁ今更でごめんだけど、つまり俺はクリスマスに興味なくて、オマエに興味があっただけで……」
「ふ、あ……っ咲、もう……あぁ……っ」
「泣くな? 泣くなよ? ダメ? コレはなんだ、違う違う。ごめんなさいちゃんとするから、そうだから、俺の顔、殴る? 違うか。ごめん。今ミスったんだな、今もミスってんだよな。ごめん。あの、ごめんは合ってる? 俺、どしたらいい? なぁ」
お粗末な脳みそを総動員してもショーゴに効果的な慰め方がわからなくて、だんだん混乱してきた。
泣いている理由もわからない。
自分が泣かせたことはわかるが、なぜずっと返事をしなかったのにわざわざ追いかけてきたのかも不明である。
それでもショーゴがこういう泣き方で泣いていると、俺は背筋が寒気だって頭が痛くなるし、妙に全身がざわつく。
「あっえ、そう、あぁ、うん」
「っひ、ぐっ……!」
顔には出ないかもしれないけれどオロオロと情けなく狼狽えている俺は、ふと思いついて、ショーゴの頭をなるべく丁寧になでた。
たぶん、ショーゴは、頭をなでられるのが好きだったと思う。
せめてもの慰めだが、抱えた体がビクッ、と震えて、ほんのわずかに泣き声が小さくなった。
効果があったので、これ幸いとトン、トン、と後頭部を慰める。
あぁ、よかった。
このままだと気が変になって目玉を抉ってでも止めたかもしんねーな。
「名前、呼んでいい?」
「ふ、っ……ゲホッ、咲……」
「うん、ありがと。ごめんな。なにが嫌だった? もうしない。オマエの嫌なこと全部しない。教えて、ショーゴ」
冷たい廊下と熱いショーゴにサンドされる時間。周囲には誰もいない。
ヒクンヒクンと喉を鳴らすショーゴの呼吸を見つつ、おそるおそる尋ねる。
「俺は、あの日……咲に……酷いことを、した、から……」
するとショーゴは顔を上げないまま、しばし嗚咽を漏らして苦悩し、それからゆっくりとカサついた唇を開いた。
「咲を、酷く、俺は傷つけた、から……会う権利なんか、なくて……」
「してねぇよ」
「じ、自分勝手だ……っ俺は、勝手に自分の常識や希望を押しつけて……それができない咲が俺の生きてきた理解の範疇内じゃなかったからって、その理由を知ろうともせず、手を離した……っ」
「勝手じゃない」
「勝手だっ……! 自分のことばかり、自分ばっかり悩んで、不安になって、四苦八苦しながら恋をしていると思いこんで、他人の心を決めつけて批判した、最低の利己主義な男だっ……!」
「いいや、オマエは素直だよ。自分が悪いと思い込んでるんだろ? なのに自分で自分を責めて、それに頷けるんだから。自分に言い訳、しねぇのな」
「違う、違う……いいことじゃないんだ……っ俺は付き合っていたくせに、咲が苦しんでいることに、ちっとも気がつかなかった……っあの時気づけたのは、教えられたのは俺だけだったのに、咲の過去を知っていたのに、俺は自分の傷を憐れむことに必死で、傷だらけの咲を放棄したんだ……っ!」
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