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──月曜日。
スタイリストである野山春木の月曜日は、二ヶ月前から休日と決まっている。
なぜなら五人の男と全員が合意の上で同時に付き合っている常識外れのクズな恋人──息吹咲野を独占できる日が、月曜日だからだ。
場合によっては一時的に交換してもいいが、基本的にはこうと決めた。
擬似でも独り占めはしたいだろう。
性格や休日、時間の兼ね合いで誰かが飛び抜けて誰かが割を食うことを、うちの恋人サマはなるべく消したいらしい。
まぁ、そりゃあそうだ。
普通はそううまくいかない。
愛人ドロ沼じゃあるまいし、日替わりで夜を過ごすなんておかしな話。
しかし恋人たちの中で最も心が狭く最も独占欲の強い人間である春木ですら、現状、特に不満を抱いていなかった。
自分でも驚く。
チョコレートより甘ちゃんで釈迦並みに温厚な生多今日助や、性根が他人に合わせる質の泣き虫な初瀬翔瑚ならまだしも、自分は彼らを利用してまで咲野をこの世に縛ろうとした野山春木なのだ。
奇跡的なその心境の答えは、咲野という男の生き様や愛し方を理解して、価値観をフィットさせたからだった。
みんなそうだろう。
全て理解した上で、いや、理解したから、ともすればクズの甘えに都合よく丸め込まれたアホのような許容を、全員が全員自主的に頷いた。
できるだけ貰ったものを返そうと愛を尽くしたがる幼い咲野を、他でもない、自分が受け入れてやりたい。
『お前らがそうとは限んねーけど、経験上、俺の交際相手は他と顔を合わせると金切り声を上げて、結局両方いなくなるんだよね。だから、遭遇率を下げるために、専属の曜日でも決めようか。余った土日は好きにすればいいし、俺の予定は考慮しなくていーよ』
歪な咲野がいつも通り薄く笑い、けれど密かに指先をジーンズの表面でコツコツとこねながら、提案したルール。
春木にはよくわかる。
今までの彼女たちのように衝突して両方を失う経験を、相手が春木たちだから恐れている。
咲野以外の全ては不必要だが、咲野が必要とするものは全て必要だ。
そして咲野の提案になにも言わずとも頷いたものだから、他の四人は春木としても覚悟を認める男たちである。
変化はまだあった。
人間らしく生きていくために──咲野は突然、駅前のカフェでウェイターとして働き始めたのだ。
完全に不必要な労働だと思う。
歯がゆいくらいに不快だ。春木は咲野を見せびらかしたくない。
咲野は息吹家から手切れ金代わりに潤沢な資金を与えられているし、この若さで高級マンションの一室を持っている。持っているというか持たされただけではあるが。まぁ維持費オンリーだ。
そして金に興味がないせいで貯まり続けているその手切れ金の運用は、理久が一手に引き受けている。
当然、現役ヤリ手社長はアホのように資金を増やした。
ロボット故の結果。冷徹故の才能。咲野の父が見込んだだけのことはあるだろう。金儲けの鬼め。
それらの毎月のバックと金利で、世の労働者が総出で袋叩きを決行しそうなほど、咲野は金に困らない。
そして咲野本人も、反吐が出るほど都市伝説じみた魔性の男だ。
繊細な心関係以外は感覚でこなす。
天然モノの誘惑者。初対面の人間を惹き込む手腕にかけてなら悪魔的。
結果は、知りたくもない。
駅前のカフェのヒラ店員が、なぜかご近所や学生の中で噂になっていて来客数が右肩上がりらしいだとか、そんなヨタ話はバカげているのだ。
こんなことなら伸びた咲野の髪を切る時、スキンヘッドがよく似合うと吹聴しておけばよかった。
後悔したって後の祭りだ。
春木のプライドと愛にかけて、咲野の髪はベストな仕上がりを維持してしまった。
コーディネートも完璧だ。飽き性な咲野の気分も考慮した見栄えは抜かりなく。もちろん大衆ウケ重視は忘れない。木を隠すなら森の中。
それでも毎日が最高にカッコイイ。
というか、全裸の寝起きでもうちのダーリンは世界サイキョウである。
ゴホン。
閑話休題。
──長くなったがこういう前置きを経て、今の春木がなにを言いたいのかと言うと、だ。
「元・ヤリチンビッチちゃんな咲のエロ経験値に追いつける気がしねぇんで、手っ取り早くセックステク教えろっつー話。どうせお前が一番慣れてんだろ? ア×ズレクソ社長」
『私は貴様の通話料を節約してやるために咲の部屋に盗聴器を仕込んでいるわけじゃないのだがね。ケツの青いメスガキ……いや、冷凍マグロだったかい?』
未だにバックヴァージンを奪われていないので咲を誘惑し、繋がりを深めていたい、ということなのだ。
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