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 雑な要求を聞いた相手は、手持ちのスマホから冷淡な声を返した。  主不在の寝室にて仕掛けられていた盗聴器の犯人──忠谷池理久だ。  野生の肉食獣並みに勘が働く春木にかかれば、雑にセットされた盗聴器の在処なんてちびっ子のかくれんぼ。  どうせ咲野は盗聴器だろうが隠しカメラだろうが時限爆弾だろうが、見つけたところで無視するだろうとタカをくくっているからこうなる。  壊されたくなければ折り返しかけろとがなれば、理久は三秒で春木のスマホに着信を入れた。  連絡先を教えていないのに。  そういう二人でそういう関係だからこそ、挨拶がわりのトゲなんて、お互いハートにはかすり傷も負っていない。  ベッドにゴロリと寝転がったまま、チッと強かに舌を打つ。  春木は前も後ろも心得たセックスモンスターと付き合っていて、自分が未だに処女であることをこれっぽっちも恥じていなかった。  むしろ貞淑の証だ。  これまで気持ちが通じていなくても、咲野以外の男を受け入れる気がなかったという証明。ピュアホワイト。  しかしそれが今になってネックになると、話は別である。  なにがどうしてそうなったのか、咲野は〝ハジメテの春木は少女のようにウブで繊細だから慎重に扱わないといけない〟と思い込んでいた。  おかげでこの二ヶ月。  春木は本番はナシのまま、後ろの拡張と性感帯の開発だけで、しっかり満足させられてばかりであった。 「コレもう焦れってぇの。上手いから余計に焦れってぇ。満足しちまうし気持ちいいけど、俺はシンプルに挿れられてぇの。だって遠いし。あとこうなったら俺だけ抱かれてねぇの癪だし。んで性技で俺がドチャクソ満足させられれば夜もナンバーワンってことで一石二鳥だろ?」  春木は盗聴器に向かって、ことの経緯の説明を付け足す。  返答は止まらないタイピング音。  いきなり死ねばいいのに。キーボードクラッシャーになりたい。 『自慢話なら他所を当たってくれ。私は真正面から乗り上げて強請ったのに数多の鬼畜プレイで焦らされ、抱かれるまで三ヶ月はかかった男なんでね』 「は、中坊に発情してんなよ」 『心外だな……中学に上がった時から咲が不特定多数を相手にするようになっただけで、私は会った時から発情していたに決まっている』 「余計気色悪いわ。社会的に死ね」  ブッ、と通話が切れた。  クソオヤジ。相変わらず咲野以外には冷たいロボットだ。  盗聴器に「家中の盗聴器破壊してから今夜咲にナイショ話すんぞ」と声をかけると、三秒以内に着信があった。  わかりやすい男である。  咲野を把握していない状況が耐え難いのだろう。どんな命令にも従うためには、予兆の察知が必須だと。 『はぁ……こちらには返答待ちの案件に把握し対処しなければならないタスクが山ほどあるというのに、駄猫にリソースを割けとは、プライオリティの重大なバグだ……要件は手短に、簡潔に、無駄を省いてほしいものだね』 「オトコを満足させる抱かれ方」  要望に応えて、簡潔に求めた。  タイピング音が止まり、代わりにパソコンを閉じる音が聞こえる。  どうやら動く気になったらしい。  似たもの同士のヌメった押し問答は、咲野の部屋という有利なフィールドを得た月曜日担当・春木の勝利だ。 『あぁ。これは一つ貸しだ』 「はいはい」 『今から行く。十分(じゅっぷん)待て。切るぞ』 「あッ!?」  が、タダでは利用されない。  利用されるような理久じゃないからこそ、頭は冷静で理論的だが超行動派の理久は、企業ひとつを牽引できる。  要するに──理久が直々に春木の体へ、咲野の抱かれ方を仕込んでやる、ということらしいので。 「ッチ、勝手に切りやがったッ!」  春木は苛立ちを沸騰させ、画面の暗くなったスマホをボスンッ! と手荒くベッドに投げ捨てた。  ──そしてその勢いで、渋々ながら黒いセックスブランケットとゴム、ローションをポイポイと用意する。  この体で満足してほしい。  咲野の全ては自分が受け入れる。  それほど程度には、春木は咲野至上主義の努力家なのであった。

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