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03※微

 それから咲野のマンションへの最短ルートを走り慣れたベントレーが到着し、理久が寝室へ入ってきたのは、通話を切ってからピッタリ十分後のことだった。 「実践してやるから足を開きなさい。ちょうどランチタイムだ。急ぎの用はない」  バタン、とドアが閉まる。  一分一秒で気分が変わる咲野に鍛え上げられたか、元々の気質か、どちらやら。いいや、その両方だろう。  分単位で宣言通りなんて気色悪い。  腹の立つ言い方もされた。  チャコールグレーのジャケットを脱ぎながら、理久は春木が寝そべるベッドに近寄り、冷めた視線で促す。 「ちゃーんと手洗いうがいはしたんだろうなぁ? クソガキ」 「とっくに消毒済みだよ、クソガキ。凶暴なウイルスに触るのだからね」  仕方なく起き上がると、理久は脱いだジャケットをハンガーにかけて、遊び時間もなくベッドに乗り上げた。 (はー速攻本番とかコイツ、抱く相手にすっとマジでつまんねぇな……ま、いいぜ。せっかくの月曜日に時間を浪費することねぇわ)  春木は内心で呆れ果て、それならそれでと舌を出した。  こちとら処女だが童貞ではない。  名前を呼びながら性欲を発散できるという理由で、サキという名の女に限り相手をしていた頃がある。若かった。  そこらへんの経験的に、理久は確定でモテないだろう。  ムードも作らず遊びもない挿れて出すだけの鉄仮面なんか、男女関係なくつまらない。そう咲野に吹聴しておくとする。ザマァミロ。  カーキのワイドパンツを脱ぎ捨て、下着のみの無防備な下半身を晒す。  枕を背に軽く寝そべると、腕をまくった理久が指にサックを着けてローションを手にし、不躾に春木の体に触れた。  不遜な大人センセーによるセックスレッスンのスタートだ。 「はっ……あんまベタベタ触んなよ? 咲のカラダに手垢ついちまう」 「ほう、私相手に触らず勃てられる自信があると? 結構。こちらも気乗りしない愛撫を省ける。是非ムードを盛り立てる発情期で淫らにリードしてくれ。レッスンは以上」 「アァンッ?」 「できないならがなるな。自分でも触れ。ドヤ顔で引っ張る自信がないからわざわざ呼び出したくせに……私を咲だと思ったほうが自然だな」 「オイオイ、火曜の男はウルセェぞ咲ちゃーん。月火兼任でも俺は構わねぇ、っく……!」  首を曲げて天井を煽る春木の中へ、ヌルヌルと入り口をなぞっていた理久の指がズプッ、と容赦なく突き込まれる。  春木が呻くが気にもせず、理久は胸の突起をシャツの上から捻った。 「ッあ、ッ……!」 「咲、月曜の男はケツの緩め方も知らない生娘だが、口と態度ばかり大きくて呆れるね」 「……ッせ、ンくらい、知ってらぁ……ッんふ、ぅ」  いちいちいけ好かない野郎め。  この態度で咲野だと思えだなんて、ずいぶん自分を高く見積ったものだ。  理久の右手の指が春木の中を這いずるまま、左手が喉元を過ぎて口腔内へもぐりこみ、唇や粘膜を擦り始めた。  舌も打てなくなったと嘆く言葉も吐き出せず、口内を愛撫する理久の指を舐めながら、春木は自身を慰める。 「ん、は」  眉間に皺を寄せ、フルリと震えた。  つい慣れた性器への快楽を追いかける本能を抑え、後ろの快感を拾う。  別に、中の開き方ぐらい、春木はちゃんと知っていた。  理久の指が引く時に合わせて括約筋に力を入れ、奥へ押し込む時に合わせて下腹部に力を入れる。  入り口を拡げながら前立腺を指先で挟んで中をかき混ぜる時は、襞で食むように小刻みに収縮させる。  そうすることでグチ、グチ、とローションのヌメリを借りながら、指は三本ほどをスムーズに呑み込む。  仕込みはもちろん、咲野だ。  焦れて理久を利用するくらいに本番行為以外はある程度いろいろと施されたカラダは、それなりに感度が高い。  スムーズに抱かれる自信とリードできるくらいの経験値、挿れられた時の感じさせ方がわからないだけである。  だから薄く目をつぶって意識を集中すれば、尻穴をまさぐられ前立腺を引っかかれる行為も異物感や違和感は薄く、滲む快感が勝った。  まぶたの裏に咲野を描けば、妄想をオカズに発散し慣れている春木は、簡単に脳内変換ができる。 「はっ…ん、ぁ」 「なるほどね……咲なら抱かなくともある程度躾をするだろうと思っていたが、嫌悪なく、これが気持ちいいことくらいは教わっているらしい」 「うふぇ、んぅ」  耳元に吐息を吹きかけ、舌打ちしたそうな顔で吐き捨てる理久。  舌打ちしたいのはこっちだ。  理久は、悔しいがやはり上手い。  アナルが切れないようしっかり拡張しつつも早々と見つけ出したしこりを的確に押しなで、きちんと春木を感じさせながら、指先一つで口内の性感帯を探り当ててはやましくなぞる。  その上唇は肌を舐め、呼吸まで使ってオスの欲望を炙るときた。  脳が二つあるのかと疑う程度には巧みに翻弄される。  おかげで自ら慰める肉茎は弾力を増して赤く熟れた頭部を見せ、蜜を滲ませ始めていた。クソが。殺意すら湧く。

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