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05※

「いいだろう。慣れろ。慣れると呼吸のコツがわかる。うまくできれば甘いキャンディでもあげよう」 「ぶ、ぇ、ひふぇ、ゲホッゴホッ」 「死ね? よくも指導者にふざけたジョークをほざけたものだね」 「ふぁ、ぁ……ッ!」 「どこまでも気乗りしない……まぁ、このじゃじゃ馬を教育してやれば咲の手間が省けるか……つくづく年長者にはなりたくないものだよ」  顔面をグーでイキたい。  涼しい顔で追い立てる理久に殺意が湧き散らかす。  擦られすぎて痙攣し始めた肉穴の内側がヒクヒクと疼いた。  デリケートな粘膜をよくも散々好き勝手にしてくれたものだ。  あぁ、ムカつく野郎め。  人のケツと口ン中弄りながら愚痴言ってんじゃねぇぞ、ボケ。  あんまり腹が立って、春木は口内の指にガリッ、と本気で噛みついた。 「っ……野山」 「はっ……この、イカレ野郎。俺は咲のオモチャであって、テメェのオモチャじゃねぇんだよ。忠谷池ぇ」  反射的に理久が手を引いたせいで喉奥を擽っていた指が抜け、開いた唇からトロリと唾液が零れる。  悲鳴もあげない。可愛げゼロ。  せせら笑う春木に目を細められ、理久は直腸を擦っていた指も引き抜く。  三本の指で散々拡張されて緩んだアナルが、キュゥ、と窄まった。  ローションと腸液で股座がヌメって気持ち悪い。中も穴も尻肉もシーツもぐちょぐちょで熟れている。  だらしのない口元を手の甲で拭う。  拭った唾液をべろりと舐めながら、春木は足を伸ばし、足先で理久の顎を持ち上げた。  屈辱的な顎クイだ。  ムカつく人間に足先で詰られる。  それでも眉ひとつ寄せない鉄仮面なのだから、大した男だろう。 「オージェーティーキョウイク」 「あぁ……勝負にならないな……」 「どっかの誰かさんの無駄口が多いからだろ、マヌケ」 「元々やる気がないのだから仕方がない」  焦れったいのは性にあわない。  つまり実地教育らしく、理久に手本を見せろと言っているのだ。  意味を察した理久は腕時計を確認して、ランチタイムが終わるまでに戻れないことを理解して、ため息を吐く。  春木の足から顎を下ろし、その足の親指をペロリと舐め、頬を寄せた。 「ひゅーう。……色狂いが」  その姿は、視線を流すだけで酷く蠱惑的な色気を醸し出した。  目の細め方。煽り方。  無表情をわざと崩して、さも肉悦を求めるような飢えを見せた。  余裕というものは経験に裏打ちされるものだ。だから大人は怖い。  さしもの性悪な春木でも、理久の色気だけは認めてしまう。  ゾクリと下肢が粟立つ。咲野関連以外で余裕ぶることにかけては、恐らく右に出る者がいない。  理久はカチャ、とベルトを引き抜きスラックスを脱ぎ捨て、プツ、プツ、と片手間にシャツのボタンを外す。 「勘違いするなよ? 咲が〝誰一人欠けずに愛したい〟だなんて言うからこうしてやるだけだ。咲の使うモノは出来のいいカラダじゃないといけないからね。それに、咲は野山の体に触れたのだろう? ならば今から、私は間接的に咲に抱かれるし、咲を抱く。野山の手は咲の手だ」 「へぇ? あ、そ。言っとくけど、俺は咲のモノマネが上手いぜ? ほら──『御託はいいからさっさとケツ貸せよめんどくさい。それとも俺に突っ込みてーの? 物好きだね、アヤちゃん』」  春木はそんな理久に手を伸ばし、ニンマリと薄ら笑いを浮かべて猫のように気ままな身を寄せた。  どちらともなく見つめ合い、ローションを手に取る。  お互いの下半身へ手を伸ばし、双丘の割れ目へ指を押し込む。 「はっ……」 「ん……」  コツン、と額が触れ合った。  邪魔なメガネだ。指先で弾くと、メガネは簡単にシーツの上へ落ちる。  代わりに現れた無機質な双眸が、春木を冷ややかに責めた。 「上手い? 猿真似以下だな。笑い方とセリフだけだ。はぁ……──『アハッ、拡げんならもっと奥でしょ。中で誘ってんのがわかんねーの? さっさと三本捩じ込んで役に立たねぇケツで真似してみ。じゃないと騎乗位なんか教えてやんねーゾ、ハルちゃん』」 「お前は声と調子だけな、んっ……」  春木も理久も、今日助あたりが聞けば「どっちも似すぎだろ……」と苦笑いを返すだろうほど、咲野によく似せた話し方で嬲り合う。  けれどおかげでリアルに咲野を思い出し、容易に高揚感を覚えた。  この身体は、咲野のものだ。  咲野を抱き寄せながら、咲野を受け入れる場所をよりイイ状態に仕込む時間だ。

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