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 手足の自由がないので、アヤヒサの背にうつぶせになる。  それでもハルは顔だけを上げて俺の指を咥えようと、ミルクを求める子ヤギみたいに必死だ。  子ヤギのハル、好きだぜ。 「ふっかわいー、ハル」 「届かね、の……っ咲、咲野ぁ……っ」  この指に、そんなに価値があるだろうか。俺にはわからない。ただの肉と骨とその他の混合物なんだけど。  なのにハルはもどかしい快感に痺れ、紅潮した顔をへちゃむくれさせて、欲しい欲しいと鳴いてやまない。  そんなハルを見ると、飢えるハルの訴えを聞いてやれないのは、あまり面白くないと思う。  アヤヒサと弄りあってから放ったらかしの後ろも限界なんだろう。  だってそういうふうにしたし。せっかく抱くならハルが楽しくねーとさ。 「ふぅ……う、ふ、ぅ」 「ん……? どした、アヤちゃん」  そろそろ許してあげよう、なんて考えていると、口でモノを味わっていたアヤヒサが、ジュポ、ともどかしげに首を揺すった。  視線をハルからアヤヒサに移す。  微かな動きで呼ばれても、気づかないことも無視することもない。アンテナいっぱいお前ら。 「んっん……っふ、ゲホッ、はっ、さき、ぁ……ッ」  髪をわし掴んだままズルリと口内の粘膜を擦りながら引き上げれば、唾液が幾重にも糸を引いて、ようやく喉を解放されたアヤヒサが涙目で控えめに伺う。 「私は、はっ……私も……ん、ぐ……」 「あはは。まぁた無駄なこと、考えてんね」 「んぶ、ぅ……ひゃひ……」  眼鏡がなくて髪を下ろしていると、アヤヒサはいつもより幼く見える。  それでも大人にしか見えないし子どもになれないのが大人だ。  はは、変な鳴き声。 「なんでそんな顔してんの?」  粘液で汚れた滑る唇を割り、チュプ、と親指を侵入させる。  方向性はすぐに狂うし地図も読めなければコンパスなんてないけれど、俺の気分は恋に気づいてからいつだって目的地に猪突猛進、一直線。  よくわかんなくても、求められてるならなんだってあげちゃう。 「だって、ハルはかわいいだろ。見たらわかんじゃん。事実だし」 「ん…ぅ……」 「だからかわいいよ、アヤヒサ」 「っあ、……っ」  『ぼくもかわいいって言って』  そう言えない不思議なアヤヒサでも俺は普通にかわいいと思う。  当たり前のことをいちいち確認したがってなにがしたいのか不明だがわざわざ口にすると、アヤヒサが息を呑んだ。  変なの。てか見たらわかるよな。  アヤヒサは品性を失って従属させられて興奮する変態だから、惨めで無様なほどかわいいもんじゃね?  結構一般的な模範解答だと思うんだけど、アヤヒサは澄ましたシッポをブンブン振って俺の親指をしゃぶった。うん、まぁ、わかんね。 「かわいい。かわいい」 「はぁ……っわら、っふ……わぁふぃの、ごふぃんふぁま……」 「ん? んー。お好きにお呼び」  ドロドロと汚れた顎を手に取り、なで、髪をかきあげてやり、やおら立ち上がる。  俺はご主人様になったつもりはないけど、アヤヒサが呼びたいならあまり深く考えず許容する。  他人ならしない。恋人特権のスペシャルな優しさでしょ。  俺が掴んでいた顎を離したせいで顔面からベッドにうつ伏せたアヤヒサは「んぶ」と呻いたが、体液の染み付いたシーツを食んで恍惚と陶酔していた。  珍しく表情を崩して喜んでやんの。  年上の男であるアヤヒサを、俺があんまり甘やかさないからかも。  強欲なクソガキだから、一度始めると骨までしゃぶる勢いで、空気や体液、名残りまでありったけ欲しがる。  な、甘えんぼちゃん。かわよ。  鏡見たことねーんじゃね。  アヤヒサの口に突っ込んでいた親指に舌を這わせて、ちゅぷ、と丁寧に吸いつき、笑う。 「咲ちゃん……咲ちゃん……おい咲ぃ……っ俺にもくれよ、欲しい……っちょうだいって……なぁ咲ぃ……っ」  あいあい、聞こえてるって。  ダイジョーブ。愛してる。  ご機嫌麗しい俺は、イモムシみたいに固定されたまま呼び続けるもう一人の欲しがりの後ろに回った。

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