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 俺の恋人たちの中で、ダントツに忙しいのはアヤヒサとタツキだ。  二人とも普段は朝から晩まで予定があり、オフは数日まとめて取る。  時間の決まった社会の歯車ではなく、それを動かすネジ巻きだからだろう。  そういうわけで、丸一日休みを取った時の火曜日と水曜日は、ニアミスが多い。  アヤヒサは日付が変わるギリギリまで居座るか引き止めるし、タツキは日付が変わった瞬間連絡をしてくるか、部屋のドアを開く。結果、掠る。  でも俺は経験上、あんま他がいてもいーよってのを、信用してねーんだよな。  ダメなのわかってる。  だから、ニアミスしてほしくない。まぁ、追い返すのも入室拒否もできないから、打つ手なし。俺がダメなんだけどさ。  ふーんて思う。ふーん。  特に二人とも、好きの量が許容範囲に直結するタイプだし。  タツキがアヤヒサ苦手だから、この二人が一緒にいることなんてまぁなかった。  俺、ふーんて思う。  けど、ぶつかり合って消えちゃったら世界が一欠片なくなるなとも思う。まぁ、ふーんて。 「咲ィ、年下嫌い?」 「咲、年上は嫌かな?」  ふーんて、ね。  ソファーに座る俺を両サイドからニャンニャン責める猫二匹を相手に、俺はどちらを先にも見れないから前を見ておいた。  なんか連休が被ったのよな。  んで、その連休をどっちもが使いたいから相手に譲れって言ってるんだけど、どっちもが嫌がってさ。  最終的に、どっちが俺に好かれてるかっていう話になった。  あちゃ。考えなくていいこと考えちゃって、損なやつら。  それを考えたせいでお別れしたら、死んじゃうのが俺なのに、だ。  命懸けだぜ。恋は。  五人も恋人を作ったばっかりに、ツケの払いは全部俺になる。  世の中が思うほど、五人と同時に付き合うのは楽じゃない。愛していればいるだけ、継続に命を削る。 「さァきィ〜……」 「はいよ」  瞼をパチパチ開閉させて時間を潰していると、堪え性のないタツキが痺れを切らし、俺の頬を手で挟んで振り向かせた。 「こっち見てて? オレ、咲の年上にはなれねェんだゼ。年下嫌いって、言ってもいいケド、年下だからオレが嫌いって言ったら、……ヤダなァ」 「あはは。ダイジョウブ。俺が死んだら年上になれるよ」 「エッ? そんなのイヤだっ。無理っ。ゼッテェ拒否。イヤだぜ。咲が死んだらオレも死ぬからなれねェの」  じっと目を見つめて笑いかけると、タツキは唇をとがらせて問題ないフリをしたが、瞳はうるりと湿る。  ありゃ、涙目だね。  タツキが嫌ならしねーよ。本気泣きじゃなくても、泣かれるとふーんてなる。 「タツキ」 「ウン……」  ピッタリくっついて額をグリグリ押し付ける甘えたニャンコの頭を、指先でクルクルとかき混ぜた。 「タツキが年下だから、年下好き」 「! エ、エヘヘ……嬉しィ。オレも咲だから咲が好きだゼ。咲が大好きなオレなんだゼ〜」  本心からの言葉を捧げると、タツキは真っ赤な顔を上げて、ゴロゴロと喉を鳴らしそうな勢いで俺の左腕に懐く。  俺だから好きなんて変なの。  変なタツキはカワイイけどね。  こういう愛玩をそそらせるのが、子どもっぽいタツキの特権。  一番年下のキョースケにもできないこと。してもいいのに。

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