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執事とご主人
『執事とご主人』
「全くいじめ甲斐がありませんね」
言っておくとこれは嫌味だ。
「そう?僕的にはもっといじめてくれて良いんだけど?」
そう言いながらベッドで微笑むのは、俺の主人であり恋人でもある男。
「そんな風に悦ばれたら、精も出ませんよ」
呆れる俺に男は肩を竦めてみせる。
残念だとでも言いたげな顔をして。
乗り上げていたベッドから身を引いて、傍らにあるサイドボードの上で紅茶を淹れると、香りに誘われる様に彼も身を起こした。
「良い香り」
「昨日、調達したばかりの茶葉です。お口に合うと良いのですが」
注いだティーカップを差し出すと、彼はまず香りを堪能する。
「僕の好きなダージリンティーだね」
「ええ、流石ですね」
「このぐらいは分かるさ」
そう言って紅茶を一口啜る。
「うん、ちょうどいい味に温度だ」
「有難うございます」
主人に出す紅茶は熱すぎても温すぎてもいけない。
「うちの執事もメイドも皆美味しい紅茶を淹れてくれるけど、和泉 の淹れてくれる紅茶は格別に好きだよ」
何でもないことのように言う特別の意。
「………全く俺を煽てるのが上手いな」
「そりゃあ主人であり恋人だからね。ね、機嫌直った?」
ティーカップをサイドボードへ戻すと、両手を広げて俺に向けてくる。
「はいはい、直ったよ」
ベッドを軋ませながら両手を広げた身体を抱き寄せて、弾むマットレスへと身を投げた。
「ふふ、執事な和泉も好きだけど、ドS彼氏な和泉はもっと好き」
「俺としては抵抗される方が興奮するんだがな。」
「そう言うもん?やってみようか?」
「いや振りじゃ意味ないだろ」
「そっかー。難しいね。だってさ」
後頭部に回った手が俺を引き寄せて、紅茶で潤った彼の唇が俺のそれと重なる。
「――和泉になら何されても嬉しいからね、僕は」
「…………お前には困ったもんだよ」
「今日は拘束する?」
「いや、今日はグズグズに抱く」
「目が本気。嬉しいなぁ」
【END】
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