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第1話
雨音が煩くて目が覚めた。
枕元に置いた、時計代わりのスマホを手に取り、画面を表示すると時間はAM4:27。
今日の休日は寝て過ごそうと、アラームも前日の朝からOFFにしてたのに、なんだかすごく損をした気分だ。
『二度寝するか・・・』
ぼんやり考えを巡らせ、目を瞑ってはみたものの、雨は窓を叩き、不快な音を響かせ続ける。
結局その音が気になり、眠れないと自覚すると、諦めて上体を起こした。
まだ覚めきっていない頭を俯かせたまま、ようやく目を開けてみると、何やら動く物が視界の隅に入って来た。
「・・・ん・・・?」
姿を捉えようとその方向に視線を移すと、自分の入っていた掛布団の内側に、もう一人誰か居るのが写り込む。
「んんん???」
雨で部屋全体がジメッとしていたせいか、人が入っていたなんて気付かなかった。
こちらに背を向けているようで、後頭部しか見えないが、布団の下からはみ出した足を見ると、どうやら“オトコ”のようで。
しかも自分のせいで捲 れ上がった布団の隙間から見える背中は、どう見ても・・・
「は、だか・・・?」
驚いて距離を取った拍子に、ますます布団が剥がれ落ち、自分も真っ裸だったと思い知らされる。
『俺・・・酔っ払って何かしたか!?
つか、布団の色違う!
ここ、俺の部屋じゃない!!??』
ほとんどパニックに陥りながら、昨日の記憶を引き戻す作業に取り掛かり、まずは現実逃避を始めた。
『いつもの居酒屋に独りで行って・・・
昼間の取引先のジジィにムシャクシャしてたのと、失恋のやけ酒と、今日が休みだって事が重なって
浴びるように飲んだ・・・
記憶、 は、 ある。
で?
どこでどうなって、こうなってん、だ・・・?』
もう、ちょっと・・・涙目・・・
「ん・・・」
そうやって固まっているうちに、ソイツが目を覚ます。
身動ぎ一つしてから、ゆ~ったりと頭を巡らし、こちらを向いた。
ちょっと無いくらい、美形。
色素が薄いのか、髪も淡い茶色で、肌も色白で一瞬見惚れる。
ってか、彫り深ぁ・・・
ハーフ・・・なのかなぁ?
そんな印象を受けて、英語が苦手な俺は急に萎縮する。
「ぉ・・・はよぅ・・・ゴザイマス・・・」
自分でもビックリするくらい消え入りそうな声しか出ない。
そういや、日本語通じてんのかな?
少しずつ冷静を取り戻して来ているせいか、半分くらい布団からはみ出たお尻が、ようやく肌寒さを伝え始めた。
「はよ。朝早くない?」
あ。日本語・・・
と、その前に、彼も寒さで起こしてしまったのかもしれないと、急に罪悪感が襲って来る。
「あ。ごめんなさい!布団・・・!」
慌てて布団を掛け直そうと手を伸ばすと、その手を掴まれ、引きずり込まれる。
「ぅ。わ!!」
そのまま布団の中で羽交い締め。
裸同士で正面から抱き締められて。
イロイロ・・・
当たってます。
「この方が暖かいじゃん?」
ご機嫌な声を出す、見知らぬ男性。
雨のせいで湿度が高いのか、互いの肌がじっとりと汗ばんでいて、なんだかエロい。
朝勃ちのソコが擦れる疼きに持って行かれない様に、意識を集中するので手一杯だった。
それにしても、どうしよう・・・。
顔を見ても全っ然思い出せない。
これって凄く失礼なんじゃ・・・
「あの・・・昨日、俺・・・
何かご迷惑お掛けしませんでした?」
超至近距離の状態で、だいぶおかしな状況ではあったが、まずはとりあえずと、記憶が無い事を遠回しに伝えてみる。
「・・・迷惑?」
きょとん。って言葉がピッタリはまる表情を返される。きっと何事も無かったのね。
と、安堵しかけた瞬間。
「迷惑じゃなくて、幸福感は貰っちゃったかな?あははは」
あはははじゃないです・・・
まだ迷惑掛けてた方が、マシだったかも・・・
俺・・・知らない人とヤッちゃったよ・・・
酔っ払ってハメは外しても、ここまでの事をしでかしたのは初めてだ。
確かに量は飲んだけど、過去最高では無い。あ。でも30歳超えてからだったら初めてか?
アレですか。年のせいですか。
「もしかして、覚えてないの?」
自己嫌悪&猛省していると、突如思考を遮断される。
「あ・・・ぁうう・・・」
申し訳無くて、言葉も出ない。
「ふぅん・・・」
あ・・・呆れてますよねー
ですよねー当然ですよねー
イジケ始める俺を余所に、彼は絡めていた足を解き、一旦身体を離し、布団へと転がすと俺の身体を跨いで、顔の両脇に肘を付いた。
「寂しいなぁー。俺は、嬉しかったのに」
チュッ。
と一つ、キスを落とす。
「ッ!!?」
これまた凄い状況下で、だけど記憶が無かったにしても一回ヤッちゃってるんだもんなー・・・なんて、やけに諦めに似た感情で、そのままキスを受け入れる。
「こっちに引っ越して来てさー」
ちゅ。
「時差のせいで隣近所さんに挨拶もできなくてさー」
ちゅっ。
「孤独だなーって思っててさー」
ちゅぅ。
「そしたら立花さん見つけてさー」
んちゅ。
「ちっちゃくて可愛いなーって思い始めてさー」
ちゅぅ~。
「へへ。今、俺の腕の中に居んのね。
なんか、しゃーわせー」
キュウ。って、頬を寄せる様に抱きしめる。
「てか。俺の名前・・・」
「うん。えっと。部屋まで尾 けました・・・
ゴメンナサイ・・・」
顔を上げないまま。
キュウ、ってしたまま謝るから、なんだか胸の奥がキュン、って鳴った。
所謂『心を鷲掴みにされた』ってヤツだったんだと思う。今にして思えば。
「なら、なんで声掛けなかったの?」
そんな、いつも見てたみたいな言い回し。
友達ならきっと、すぐなれたかもしれないのに。
「言ったでしょ。時差に慣れてないって。
俺ね、まだ引き継ぎも半端だったから、海外時間で仕事してたの。
多分俺、立花さんと真逆の生活してたよ。
だから帰って来たのを見届けてから、お仕事してたのよね。」
なんだか別次元のような話だ。
いゃでも、休みだってあるだろうに。
何かしら理由付けて、尋ねて来る事だって出来ただろうに。
そこまで考えて我に還る。
どこまでコイツに関わりたがってんだ、俺。
うぬぼれみたいでちょっと恥ずかしい・・・
そうだよ、別に告られてすら居ないのに。
「ね。許してくれる?」
ちゃんとした答えを返していなかった事に気付き、小さく頷く。
「良いょ、もう。
むしろ酔っ払って押し掛けて、挙句に泊まってくなんて。
迷惑掛けたの俺の方でしょ?記憶無いのが申し訳無いけれども」
本当もぅ、みっともない所しか見せてないんじゃない?俺・・・
初対面の人にさ。
あぁもぅ情けない。
「全然!ぜぇぇぇんぜん!!
てか、許して貰えて良かったぁ
やっぱ良い人!立花さん!
好き!!」
んちゅぅぅぅぅぅ
「我慢出来なくって、いっぱいちゅーしてごめんなさい・・・」
なんで謝ってんだか。
どう見てもイケメンの、そのくせ陽気でストーカーで、妙に人懐っこくて、可愛い・・・
「あれ。名前、聞いてない」
ほら、俺だって気持ち持ってかれ始めてる。
コイツの事知りたいって、子供みたいに焦ってる。
自分で笑っちゃうよ。
「俺、玲央 です。
海外に出ても違和感無い様にって両親が付けてくれたらしいです。
ちなみに25歳だったりします。」
へれ。
と、音が聞こえそうなくらいの、年下の彼の緩い笑顔に、失恋したばかりの心が癒される。
「俺の下の名前ね、睦 。
女みたいで嫌なんだけどね。
しかも34のおっさんよ、俺。
そんなん相手してて良いの?
ちゃんと玲央に見合った、相応しい人んガ」
突然顎を鷲掴みにされたおかげで、続きを遮られた。
「おれぇー。睦さんしか見えてねースから」
凄いね、このヒト。
聞く耳持たないんだね。
なんも言わしてくんねーのね。
俺の、ネガティブ発言をさ。
俺を、ネガティブにさせてくんねーのね。
前の彼に足りなかったのって、こう言う所だったのかなぁ?
こうしてまた、失恋の疵を思い出す。
そういえばコイツ、玲央。
俺が失恋したばっかだったって事、知ってたのかな?
ストーカーだしね、知ってんのか。
妙な納得をして、俺の顎を掴んだままの掌に舌を這わせる。
「ひあ!」
不意を突かれたのか、弾かれた様に手を引くと、真っ赤な顔で唇を尖らせた。
「睦さん、経験値高すぎ。心臓に悪いよ」
「こういうの嫌い?
良いじゃん、一回ヤッてんだし。
覚えて無いのが残念だけど」
本当、記憶無い時にこんなイケメンとHしてたなんて、酔っ払いの俺に嫉妬だよ。
「えぇ?してないよ?セックス」
「へ!?」
わぁ、間抜けた声が出た。
―じゃなくて。
「え。だって裸・・・」
「うん。全部自分で脱いでー
それだけじゃ飽き足らず、俺の服まで引っペがしてー。寝ちゃった。
折角睦さんとゆっくりお話出来ると思ったのにー。しかも全裸の寝顔見て一人でムラムラしてさー。寝顔でコイちゃった。ゴメンね。」
てへぺろ♪
って擬音が聞こえる・・・
そうかー、そうだよねー、だって身体に違和感ねーもの。
最初っからオカシイとは思ってたんだよねー。何やってんの俺。
まぁコイツも大概だけどな。
「と、言う事で」
両手で両頬を挟まれる。
「ちゃんと意識のある時に、ゆっくりネチコく、いんやらすぅぃーセックスしましょ♪」
ぷちゅ。
音立ててキス。
今日何回目?
もう分かんない。
もう、考えんの止めよ。
だって俺、この数時間の間に、すっかり玲央に堕ちたもの。
恋、しちゃったもの。
それで、十分なんじゃない?
「玲央」
「なぁに?」
「すき」
んちゅぅ。
今日初めての俺からのキス。
ちょっと長めにしてやった。
「む、むっちゃぁぁぁぁん!!」
あぁあ。折角の男前が台無し。
真っ赤に、でろでろに蕩 けたイケメンが、俺の名前を呼んで抱きしめて来るのは、物凄い優越感。
愛しくてたまらんね。
その気持ちを伝えたくて、抱き締め返す。
また密着した身体が、違う意味でも互いの気持ちを丸裸にしていた。
「むっちゃんも勃ってる・・・」
「そりゃぁ・・・ねぇ?」
「大事にすんね」
言いながら、ゆるぅりと腰を動かし、擦り始める。
「へへ。先走りでぬるぬるー」
「それ、は、玲央もじゃ、んッ」
声が、吐息で途切れるのを隠そうとしたけど、出来なかった。ヘタだな、俺。
いや、玲央には、隠せないだけなのか?
「むっちゃん、エロッ♪」
「お、陰さまでッ」
あぁダメ。息が、荒く・・・
「玲央ォ」
ギュッとしたまま、吐息のように名前を呼んだら、ちょうど耳に掛かったみたいだ。
「ちょッ、む・・・ッ」
ビクリと、身体が弾んだ。
あー可愛い。
可愛いついでに、耳を舐めてやった。
「ダメ、むっちゃ・・・んッ」
あらら、耳弱かったのか。
やばーい。うねる腰が可愛いー。
「もう!イタズラする口は、こうしてやる!」
上手く摺り抜けると、口に噛み付かれた。
本当、噛み付かれる、って言葉が当てはまるような。大口で唇を覆われた。
まぁ、そのまま吸われたから簡単にディープキスに移行したんだけど。
絡めた舌のうねりがあんまり気持ち良いから、キスでイク人の気持ちが、分かった気がした。
「は。ぁ」
窒息しそうなほど長いキス。
お互い吸い付いていたハズなのに、離れた口許からは唾液が溢れ、零れていた。
「むっちゃん、すっげーエロい顔・・・
俺、セーブ出来る自信ありません・・・
ごめんなさい・・・」
「玲央さ、謝んの、癖?」
ふふ。って笑ったら、またエロいとか言われてしまった。
まぁ、褒め言葉として受け取っておこう。
「むっちゃん、乳首も勃起してるよー?
エロいねー」
ぬるッ。と舌の感触。
チュッと一度キスの音がして、舌先で嬲られる。
「ん。・・・は。 ャぁ・・・」
快感が、そこだけでは飽き足らず、下半身へも疼きを運ぶ。
期待にうねる腰は、玲央のお腹へと押し当てられ、催促してるみたいだ。
「もー。むっちゃん、そんなにおねだりされたら、俺マジ理性無くしちゃうからー」
「ちが・・・」
言い終わらないうちに、玲央が催促に応えるように、俺のを咥え込む。
「ふ。は・・・ぁぁ・・・ん」
唾液いっぱいの口腔は、俺の全身を快楽で満たすには十分で、ちょっと唇で締めつけ、数回扱いて、吸い付かれるだけで、簡単に限界を迎えた。
「むっちゃん」
「早かったのは、たまたまだかんな。
いつもはこんなに・・・」
「可愛かった・・・」
鼻血でも出すんじゃないかってくらい、鼻の下も伸び放題の玲央の方が逆上 せたみたいに顔真っ赤。
可愛いのはアナタですよ。もう。
「うっせ!ばぁか!」
照れ隠しに、玲央の股間へダイブ。
きっとずっと勃ちっぱだったソレは、やっぱりハーフなのか、俺のより2割増しにでかかった。
一瞬、『入んのかコレ・・・』
とは思ったけど、そこはホモ歴ウン十年の経験でなんとかなる!と思い直し、先端から頬張った。
「あッ!そんな・・・ッ!」
何が『そんな』なのかよく分からないが、口腔内で硬さを増すのを感じて、悦びを得る。
喉元まで咥え混んでも収まりきらないソレでも、口ン中に収まると言う事は太さ的には大丈夫だ、とか計算もしつつ、玲央もしたように唇で扱 いて行く。
「ん。はぁ、あぁッ」
玲央の喘ぎを聞いて、気持ち良さを共有してるみたいな気分になる。
もっと、気持ちよくなって。もっと、もっと。
夢中でむしゃぶり付いてるうちに、いつの間にか玲央が仰向けに寝そべっている事に気付く。
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