2 / 10

第1話

僕は、孤児だった。 打ち捨てられた死体が地面を覆い尽くし、血濡れの刀や崩れた仮造の要塞が寒々しい雨に打たれて酷く寂れていた。 その要塞の隅に、僕は雨に濡れるのも構わず息を殺して隠れていた。 "怖いもの"が過ぎ去っていく様に必死で願いながらキツく目を閉じて足を抱え小さく蹲っていた。手には鋭く尖った瓦礫の一つを握りしめていた。僕は僕の魂の死際をせめて、この石に託したのだ。 "アレ"に魂を吸われるのなら、僕はこの石で僕の魂を完結させたい。 だけど"アレ"は死の匂いを辿る化け物だ。 早くここを逃げ出さなければ、僕の魂が狙われる。 アレは僕を追ってきた。 アレは僕の魂を欲していた。 僕は、死の匂いに取り憑かれているのか。 僕は不幸なのか。 僕は運が無いのか。 それとも僕はこういう宿命なのか。 ぎゅ、と掌を強く握ったその時、ザリッとすぐ側で物音がした。 「ッーーー!」 僕は音にすらならない声を上げそちらを振り返ってしまった。 そこにアレがいると分かっていながら。 「うぁああああーーーーっ!」 僕は遂に大声を挙げ、拳に握りしめた石を大きく振り被り、自分の腹を目掛けて勢いよく振り下ろした。

ともだちにシェアしよう!