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真人①
***
兄が離婚した。
金曜日の仕事終わり、久しぶりに兄と二人で飲んだ時のこと。仕事帰りのサラリーマンでごった返した新橋の立ち飲み屋の引き扉は、建付けが悪くて完全には閉まらず、足元は隙間風で常に寒かった。
兄・亮治 は結婚して辞めたはずの煙草を急に吸い始め、煙とともに洩らした。
「俺さ、離婚したわ」
一杯目のビールを飲み干し、二杯目のビールがくるまでの時間を、二人で持て余していた。
亮治は簡潔に報告すると、煙草のヤニと油でべたついたカウンターに肘をつき、背筋を丸める。いつもはスーツをビシッと着こなしている兄も、この時だけは身に纏うそれがやけに大きく、浮いて見えた。
亮治は続けて、眉尻を下げて笑った。
「俺が悪いんだよ」
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