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2 side 黒川 廉
「〜♪」
スマホのアラームが鳴る前に着信音で起こされる最悪の目覚め。名前を見ずに応答ボタンをタップする
「…なんだ」
『おはようございます若。ここ数日間の仕事が溜まりまくってるのでいつもより1時間程早く仕事を開始して頂きたい。宜しいでしょうか』
スマホから聞こえてくるのは無機質な声。俺の右腕の二人目、いや左腕になるのか?…左腕って例えはそんなに聞かないが、少なくとも白林と同じくらい仕事ができる有能な部下、凛堂からのモーニングコールに頭を抱える。『宜しいでしょうか?』ではなく『宜しいでしょうか』と語尾に疑問符が付いていないので拒否権は無いのだろう。
「…あ〜…分かっ」
『では、30分後に下に。』
俺の返事に被せ、ブチッと切れる通話。俺にこんなのできんの優斗かお前だけだよ凛堂。
いつものブラックスーツに身を包み、軽く髪を整える
仕事と言っても裏社会のドンパチするような野蛮なのではないし、出来るだけそういうのは避けたい。今日のは表の至ってクリーンな会社だ。そこの経営をちょっとしてるだけで実際、『若』と呼ばれるような事は何もしてない。
俺からすれば経営の方が本職だ。親が組長なだけで幼少期から色々大変だった。まぁいずれは俺がその頭になるんだろう。そうなったら経営と家業、二足の草鞋になるな…大変だ。
俺は会社経営。早野は知り合いの花屋の手伝い。白林は詳しく知らないが色々やってるらしい。
そうこうしている内に出社時間。
下に降りるといつまでも要らないと言っているのに明らかにソッチ系の運転手付の黒塗り車が停車している。
後部座席に乗り込むとメガネのブリッジを押し上げ、助手席から小言を混ぜながら今日の予定を読み上げる凛堂
俺が華にうつつを抜かしていたので丸々3日分あるらしい。これは大変だ、と苦笑した。
カタカタ、と延々終わらないタイピングをしながら考えるのは仕事の事ではなく勿論、華のこと。
困ってたよな…。目を見開き、眉尻を下げ口を開閉する華を思い出す。
自分でも『結婚しないか?』なんて言うつもりはなかった。だけど家の事もあり、『清いお付き合い』をした事がなかった為、勢いであんな事を口走ってしまった。知識だけはあるのだがどうも華を前にすると上手くいかない。本当は『順番が前後してしまいすまない。俺と付き合わないか?』とクールに言うはずだったのに。
「ハッ」
成人済の男が、たかが男子高校生一人の事を考えて悩んで、って。笑えないな。たった数日なのにどんどん嵌っている自分を鼻で笑う。お世辞にも華の俺に対する態度は良いとは言えない。なのに一挙一動、全てが可愛らしく感じるのだから尚早末期だ。これじゃ運命どうこうの前にただの一目惚れだ。
あの時、帰る、と言われたがあれは拒否ではないだろう。
例え拒否していたとしても俺が捻じ曲げてやる。
結婚は先走りすぎたが、いずれは結婚したいと思っているが、まずは『清いお付き合い』だな。仕事が済んだらデートにでも誘ってみるか
「凛堂」
音もなく社長室に登場した凛堂に予定を尋ねる
「纏まった休みが取れるのはいつだ」
「社長が数徹なされるなら、来週には。」
「フン、言うようになったな」
「恐縮です」
30°頭を下げ、敬礼をする凛堂。本当に食えない男だ。
仕事の事しか頭にないのかコイツは?俺は徹夜が世界で二番目に嫌いなので徹夜だけは絶対にしない。因みに一番は効率が悪い奴。それを知っていて言ってくるのだ。仕事はかなり溜まっているのだろう。
「はぁ〜、やるか。」
それから、番の体だけでなく心も自分の物にする為の計画を立てながら作業を進めていった。
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