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黒川さんは俺を抱き締めたままベッドに転がる。 バスローブは新しいの着させてくれたから寒くない。 俺の髪を触りながら黒川さんは話し始めた。 「お前やっぱ昨日の事は覚えてないの」 「…風呂上がり暑くて窓開けようとして…って所までしか…ごめんなさい」 「身体は?今は暑くないか?」 心配した顔を安心させるようにコクコクと頷くと、厳しかった表情を幾らか和らげ頬をむにむに摘まれた。 「…なら…良くねぇけど良いか…早野にチクるからな…」 「えぇ??」 黒川さんは変な顔でそう自己完結すると俺を抱きしめ直して目を閉じた。15cm弱の距離からその顔を見上げる。相変わらずお綺麗な顔だな…。 それからしばらくの間、起きないのをいい事に黒川さんの顔を観察する。整えられた眉にかかる前髪はサラサラで、閉じられた瞼。開いて俺を映す瞳は真っ黒で怖いなと思うこともあるけど、もっとその瞳を覗きたいって思いの方が強い。 「はぁーーーー」 小さく、小さく息を吐いて目を閉じる。 昨日の事を何も覚えてないって事は、多分またヒートが来たのかな。発情期は一週間くらい続く筈なのに俺は前回も今回も一日、いや数時間寝ただけで発情期が終わっている。思い出すのは昔のこと。 『駄目なΩ』『αの成り損ない』『ただのインラン!』 小学生の頃に同級生からそう言われた。意味なんて多分理解していなくて、親の言っていた事をΩの俺に言ってきたんだろうと今考えれば分かる。でも当時の俺には重過ぎた。それから俺は誰にも何も言われないように勉強も運動も人脈…は上手くいったのか分からないけど努力してきた。高校生になって思い出す機会は減っていたのに今になって思い出す。 Ωはαの子を孕むしか能がないのに、やっぱり俺は発情期すらまともに来ない、子も孕めない駄目なΩにしかなれなかった。 「…はぁ…」 いつの間にか滲んでいた視界。ごしごしと目を擦る。 ずびーーーっと鼻をすすると同時にどこからかピピピピとアラームの音がきこえてくる。

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