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「…花火始まってるじゃん」
1時間待ったという事はもう7時になっているって事で打ち上げ花火は始まってるってのは考えなくてもわかる。
住宅街から出てくる人はパッタリいなくなったし1時間以上前から動いてないのは世界中で俺だけなのでは無いかと錯覚してしまいそうだ。
こんなに遅れるのに連絡もないし事故とかじゃないよな?と得体の知れない不安に襲われ、もう一回電話をかけようとLINEを開く。
「ん??」
黒川さんのアイコンをタッチする前に友達追加していないアカウントからメッセージが届いているのに気付く。
すぐに開いた。送られてきていたのは画像一枚。
たったそれだけ。
「…っぉお…、…え?何だこれ…」
その画像を見た時、一瞬息が止まるかと思った。
ていうか一瞬止まった。
送られてきたのは誰かの隠し撮り。
写ってる二人のうち、背の高い男の人の顔をよく見ようとズームする。
誰か間違いだと言ってくれ。
だって黒川さんは今日俺と花火大会に行くんだよな?
「…まじ?」
何回見ても写ってる人は黒川さんで、隣には『お姉様』って言葉がしっくりする綺麗な女の人が並んでる。
腕なんか組んじゃってさ〜!俺だってまだ手繋いだことしかないのに!!!!!ちょっとジェラシー。
お姉様は茶髪ロングで毛先はフワッと軽く巻いている。いい匂いがしそうだし身体も柔らかそう。肌も出す所は出して隠すところは隠れてる上品な露出。隠し撮りにしては顔も綺麗に撮れている。美人さんで見る限り完璧。
「フッ…番は俺だもんね…」
でも勘違いなんかしない。
だって女の人の近くには秘書っぽい人が立ってるし、多分ビジネスの相手でしょ?しかも黒川さんはちょっと離れようとしてる。大丈夫大丈夫。
社長の黒川さんのビジネス相手だったら話に来るのは社長だろうし社長に上り詰める実力があるって事は限りなくαだろう。
α同士は番になっても上手くいかないっていうし。
完全に俺の勝ち。このお姉様は黒川さん狙いだろうけど勝負は始まってすらない。会ったことのない男子高校生に負けるんだ。
「…でもなぁ…綺麗だなぁ…」
俺の勝ち、どれだけそう自分に言い聞かせても嫌なものは嫌だ。
でも俺は黒川さんの家の鍵貰ったし。
いつでも来ていいよって言ってくれたし。大丈夫。
キーケースを開き鍵を撫でる。
俺は正妻気取りしとけばいいんだ。いや浮気って決まったわけじゃないけど。
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