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理性と本能

「げほっ……」 自分の咳き込む声で目を覚ます。いつの間にか寝てたみたいだ。まだまだ怠い身体をぐっと起こした。 「……痛てぇ…」 なぜか身体の痛みに加え頭痛もしている。それに寒いのに暑い…視界はグラグラ揺れるしゾワゾワと悪寒がする。 これは風邪引いたかも。喉が痛くないのだけが救いだ。 ちゃんとパンツ以外も着てから寝ればよかった。 てか早く帰らないと、帰ってきた黒川さんに移しちゃう。 今は10時過ぎ。 とりあえず服を着て琉唯くんに連絡して家に帰る、そう頭の中で順序だてて、まずは服だ、とベッドから下りる。 「…ぃだっ!」 受け身もまともに取れずに顔から床に倒れた。 目眩がするのと身体が怠いのを忘れてベッドから下りたせいで床にビタンとうつ伏せになった状態。 頬に触れた床の温度が異常な程に冷たい気がしてハッと動きを止める。 …これ…この感覚、身に覚えがある。 あれは黒川さんと遊園地に行った日の夜…ホテルで… 「…発情期?…まじか…」 意識した途端、身体が先程より一気に熱くなった気がした。 「…ちょちょちょっと待ってまだ始まるなよ…帰るまで耐えろ俺…」 なんとか膝立ちになってベッドのスマホに手を伸ばす。 電話をかけたのは琉唯くん。 1コール、2コール、その内にも息がだんだん上がってきて背中に汗が滲む。早く出て〜〜〜〜お願いだよ〜 『なに?』 3コール目で電話に出た琉唯くんの声はちょっと眠そうだった。寝起きで申し訳ないけどそんなの気にしてる余裕は今の俺にはないんだ。 「るいくん俺やばい発情期始まりそう早く家まで送って!!」 『いや…抑制剤?ってやつ持ってないの?』 「…!!」 抑制剤!! 存在を忘れてた。いつも急に始まってもいいように制服のポケットに、・・・ 「…やばい…家…。」 絶望的だ…。忘れてた。 俺の発情期いつくるか分かんないんだった。 信玄袋にはキーケースと財布とハンカチ、それとポケットティッシュしか入れてない。 言葉を失う俺。琉唯くんの深ーい溜息が電話越しに聞こえる。 『お前さぁ〜〜…間に合わないだろ。若呼べば?帰ってくるだろ』 「やだ…絶対迷惑だし見られたくない…」 『…わかった。待っててすぐ行く』 「ありが、と」 琉唯くんの力強い言葉に安心する。 ブチッと電話が切れたのと同時に俺の気力も尽きた。

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