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水族館に着いてすぐ黒川さんがチケットを買ってくれた。
今日も意地でも俺にはお金を使わせないつもりらしい。
「はい」
「ありがとうございます」
黒川さんがチケットを手渡してくれて受け取る。
俺はそのまま黒川さんの腕に自分の腕を絡ませた。
「華?!」
「…」
周りの人にはチラチラ見られるし黒川さんがびっくりして俺を見下ろすけどこんなんで恥ずかしがってる場合じゃないんだ。
俺は今日、理央が黒川さんに水族館でした事を全部上書きしないといけない。
おい周りのヤツら見てんじゃねぇよ俺の黒川さんなんだよ…って思いを込めながら睨みをきかせて館内に入る。
平日だけど夏休みだから館内はやっぱり人が多い。
まずは深海魚だ。ビジュアルが可愛くないとか暗いとか関係ない。
暗いからできる事だってあるし。
黒川さんは黙って引っ付くだけの俺に『これグロいな』とか『ダンゴムシみたい』とか色々話しかけてくれるけどドキドキと謎の焦りで生返事しかできない。
もっと、もっともっと黒川さんが俺だけでいっぱいになればいいのに。そう思っても理央みたいに可愛く上手く動けなくて、無意識に組んだ腕に力が入る。それに気付いた黒川さんが顔を覗き込んでくる。暗くてよかった。必死な顔見られたくないし。
「華?なんか怒ってる?」
「怒ってないです…次はクラゲです…!」
ぐいぐい組んだ腕を引っ張ろうとしたけど黒川さんは動かずに立ち止まる。
「華?どうした?」
「クラゲ見てイルカショー見るんです!今日それだけは絶対見ないといけないから…」
言いながらどんどん尻窄みになる俺に気付かず黒川さんは笑いながら俺の頭を撫でてくれる。
「ふーん、そんな楽しみにしてたんだ。何周でも好きなだけ見ような」
はやく理央の事は忘れて俺のことだけ考えるようになればいいのに。
黒川さんの事が一番好きなのは俺だって、言いたいけど言えなくて、中々素直になれない。
いっそのこと組んだ腕から気持ちが伝われば良いのになと思いながらクラゲの展示場所に向かって歩き出した。
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