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俯きながら廊下をとぼとぼ歩く。
行先なんてない。ただ院内を徘徊しているだけ。
「………」
事故に遭った大抵の人は早くて数時間で目を覚ますらしい。でもそれは事故の度合いがそこまで酷くない人。
てか数時間ってどれくらい?
人によって違うのは分かってる。
3ヶ月、目を覚まさなかったら植物状態になるって。
早くて今日中に目を覚ますかも。でもそれは『かも』で何も信じられない。
逆にこのまま目を覚まさない可能性だってある。
ぐるぐるぐるぐる、お医者さんに言われた事や理央の泣く声、俺と理央を励ます正臣さんの声が頭を回る。
「…戻ろう」
ムカムカする胸をスッキリさせるように深呼吸をした。
今朝、目を覚ました時の絶望感が今でも胸にこびり付いている。
先に起きていた黒川さんが『おはよう華』と言って俺の頭を撫でたりする事はもちろんない。無駄に広いベッドは隣が冷たいし、広い家も、この世でたった一人になったような気分になる。
家を出る時だって行ってきますのチューはなかった。
鍵を閉める時も今日は同棲だ…!なんて気分にはならない。また現実を受け止めに行かないといけない、と思った。
漫画だったら間違いなく俺の後ろにはずーーーーん……という効果音が描いてあるだろう。
その雰囲気を背負いながら歩くのも気が滅入りそうでやっとの事、病室に戻る。
「あ、華くん、僕たち一旦本家に戻って荷物取ってくるからそれまでよろしく」
「あ、はい…」
俺が戻ってきたのに気付いたなり正臣さんは理央の手を引いて病室を出ていく。
すれ違いざまに俺の頭を撫でた手は黒川さんとそっくりだった。
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