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非日常

──ピピピピ 毎朝7時過ぎにセットしているアラームが鳴り響く。 「ん゛ん〜…うるさ…」 これは黒川さんが入院し始めてからセットしたもの。 これまでは毎朝黒川さんの超絶イイ声で最高の目覚めをしていたのに急に電子音に変わってしまった。 大泣きしてから一週間、まだ黒川さんは目覚めない。 黒川さんのおはよう…もう一週間も聞いてないのかぁ…。 またじわりと目頭が熱くなる。危ない危ない。しっかりしないと。あれから少し現実を受け止められるようになった。でもまだ眠っている黒川さんを見るのは慣れない。 「あ〜……」 朝は嫌い。眠いし、だるいし、何より黒川さんがいないのを強く実感するから。リビングに行った時の暗さはまるで俺の心のよう…。 今日はバイトをしてから病院に行く予定。まぁほぼ毎日それなんだけど。レッスンは気を使ってくれた白林さんが暫くは廉の傍に居てあげなって休みにしてくれてる。 とりあえず無理矢理にでも起きるために、リモコンでカーテンを開ける。金持ち自動カーテンにも慣れたものだ。 今日も元気の良い夏の太陽さんは、黒いカーテンの開いた隙間からピカーっと太陽光をプレゼントしてくれる。 あまりの眩しさに、ベッドに寝転んだまま右手で光を遮った。 「眩し〜……ん?!」 その時、チラっと見える赤色。 ん??この家は基本、黒だから赤なんかないはずだし、この角度で窓から見える景色は空だけ。 思わずもう一度同じポーズをとる。 そんな俺の視界に入ったのはキラキラ光る赤い糸。 ──そう、正真正銘、真っ赤な糸、『赤い糸』だ。 それは俺の右手小指に巻き付いている。 「…糸…!?」 ぶんぶんと手を振ってみると、俺の動きに合わせてふよふよ揺れる糸。触れはしない。 「…疲れてるのかな?」 でも毎日ちゃんと寝てるし…あ…ストレスが原因? ほら、毎日理央の泣き声めちゃくちゃ聞いてるし。 うん、そうだ、きっとそうだ。 そうじゃないとこんな幻覚が見えるなんて考えられない。

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