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最悪だ。
俺の事を忘れている人の部屋で自慰をしてしまった。
この自慰も、黒川さんが好きなのも、もう全部全部無かった事にしたい。
あのネオン街で捕まったのも、初めて一緒に行った遊園地で付き合おうって言われたのも、俺の部屋で2回目のプロポーズをされたのも。
一緒に俺も記憶喪失になりたかった。
どうせなら、俺も黒川さんの事を忘れたかった。
「…なんで…俺だけ置いて行くんだよ…」
冷えきった頭と火照る身体。心臓がキリキリ痛んで止まない。
もうすぐしたらヒートも本格化してきて繁殖以外の何も考えられなくなる。
始まったら一人で耐える、ただそれだけ。なのにこんなに怖いのは何でだろう。
今も俺の右手の赤い糸は蘭さんに繋がっている。
もう蘭さんと付き合った方が幸せになれるのかもしれないし、助けを求めた方がいいのかもしれない。
でも運命の赤い糸が繋がってなくても、俺の番は黒川さんだから、黒川さん以外との行為は高いリスクが伴うし、何より黒川さん以外に触られたくない。
「………もう嫌だ…」
黒川さんの目が覚めた時、『俺はあなたの番で恋人です!』って大きな声で言えていれば何か違ったのかもしれない。
今この時、もしかしたら黒川さんが隣にいたかもしれないのに。
でも言えるわけない。頭おかしい奴だって思われて嫌われたくないから。これは自分が弱虫だから招いた結果だ。
これから一週間弱、ここを使わせてもらおう。
一人で耐え抜いて、またバイトとレッスンの毎日に戻るんだ。
そんな毎日を繰り返していたら、きっと寂しいのも苦しいのも辛いのも忘れられる。だから、今だけここを貸してほしい。
「…はぁ…」
いつの間にか脱ぎ捨てていたズボンを手繰り寄せて、ポケットの中からキーケースを出す。
「…いい夢が見れたらいいなぁ…」
それと腕に着けていた腕時計を外し、両手にぎゅっと握りしめて目を閉じた。
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