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総会が二週間前に迫った今日、俺は本家に来たばかりだと言うのにあのメガネ秘書の『持って来て下さいと頼んでいた書類は何処ですか?』という一言で自宅へトンボ帰りしていた。 「若!急いで下さいね!」 岩下の催促に頷いてエレベーターへ向かう。 「書類忘れとか凛堂って奴が取ってきてくれればいいのに」 それか岩下、もしくは優斗。部下というのは名ばかりだ。 やっと乗り込んだエレベーターで最上階へ上がる。 玄関のドアに鍵を差し込み解錠して、ドアを開けようとしたのに何故か開かない。 「あれ」 何でだ?鍵が空いてた? もう一度鍵を差し込み回すと今度は開いた。 玄関に足を一歩踏み入れたその時、なぜか全身の力が抜けて膝から崩れ落ちる。 「うわっ」 なんだこの匂い。力入らない。 全身に纏わりついてくるこの匂い…これは、多分オメガのフェロモン。 実際に嗅いだ事はほぼ無いが、頭のどこかで確信があった。 甘ったるくて胸焼けしそうな匂いに思わず手のひらで鼻を覆う。 例えるならケーキ、生クリームとかチョコみたいな甘くて美味しそうな、俺の大好きな甘い物。 そんな香りが家中に充満していた。 「ん?」 とりあえず中に入らないと、と思い地面についた手の指先に何かが当たる。 そこを見ると無造作に脱ぎ捨てられたスニーカーが目に入った。 黒のシンプルなスニーカーは見るからに男物でサイズは俺とそこまで変わらなさそうな所から、身長もかなり高い方だと察した。 取りに来た書類のある書斎を通り過ぎ、匂いがより強い寝室へ向かう。 「くっっっさーー!!」 ドアを開けるとフェロモンの香りより強い香水の匂いが鼻をついた。 そこで一番に目に入ったのは、真っ黒なシーツに浮かび上がる真っ白なケツ。 そう、ケツ、尻だ。 ぷりっとして、柔らかそうな…いや、意外と引き締まっていて筋肉質かも…、じゃなくて誰だ? 白いケツの持ち主は、はぁはぁと荒い呼吸を繰り返している。ここからじゃ顔は見えない。 敵なら俺が入ってきた時点で動いているだろうし、とりあえずは敵ではないと仮定し、恐る恐る近付いて寝ている顔を覗き込んだ俺は言葉を失った。 「……」 俺のベッドを占領していたのは、病室で会った茶髪の無表情な青年だった。 そいつが握っているのは黒い腕時計と、薄紫のキーケース、それと俺がいつも使っている香水の瓶。 周りを囲む円形に置いてある俺の服やタオルにネクタイは所々濡れている。香水がかなり減っている辺り、置いてある服などに吹きかけたと思われた。 「…マジか」 抱き締めているTシャツや黒いシーツには色んな液体が付いていて、まぁ何かとは分かりたくないがそういう事だろう。

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