182 / 225

chocolate for you !

ハロウィンもクリスマスも見事にスルーしてしまいましたので、バレンタインの小話です。 ______________________________ 2月某日、俺と琉唯くんは朝からバイト先の花屋で店内の飾り付けをしていた。 琉唯くんが一生懸命膨らましているピンクや赤のハートの風船は、今週末に迫ったバレンタインをイメージした物だ。 「バレンタインか〜」 「お前は若にやるんだろ?」 琉唯くんの当たり前とでも言うような視線に曖昧に頷く。 正直バレンタインなんて全く考えてなかった。 ハロウィンやクリスマスにバレンタイン。そこら辺のカップルはイベントにかこつけてコスプレエッチとかプレゼント交換とかするんだろう。 でも俺と黒川さんはお互いにそこまでイベントに興味がなかった。思い返せばハロウィンはスルー、クリスマスは特に何も無くあっという間に年を越えてしまった。 未だに毎朝行ってきますのちゅーはしてくれるから倦怠期とかそういう訳ではないと思うが、ドライ過ぎて泣きたくなる。 「俺料理できないし買ったやつ渡すよ」 「あ、溶かして入れて冷やすだけのやつにすれば」 溶かして…入れて…冷やす。トロトロで液体になったチョコレート。俺の頭の中にはチョコレートフォンデュがぽわんと浮かんだ。溶けていると言えばチョコフォンデュだろ?じゃなくて、…溶かして入れて冷やすだけなら俺でもできそうだ。 そんなこんな、琉唯くんの一言でバレンタインのチョコ作りが決定。その日のバイトは黒川さんが迎えに来てくれる時間より早めに上がらせてもらい、琉唯くんとスーパーでチョコ作りに必要な物を色々買ってきた。 トートバッグの中にはラッピング用の袋と板チョコ、それとなんか可愛い星型の砂糖に流し入れる型が入っている。 揺れる車内でビニール袋が擦れて音が出ないように気を付けるのに必死で、黒川さんの横顔をあまり見れなかった。 「華、風呂と飯どっち先にする?」 「風呂がいいです。先に黒川さんどうぞ。タイマーセットしてます」 「ん、ありがとう」 ネクタイを緩めながら俺の頭を撫でた黒川さんの背を見送る。 …うわぁ、なんだ今の…。めちゃくちゃカッコよかった…心臓ドキドキ止まらない…。 そっと心臓を押さえて完璧過ぎる黒川さんの行動に浸る。 毎日あれだけど、やっぱり慣れないなぁ…大好き!!! 「…はっ、チョコ…!!」 長い時間そうしているわけにはいかない。俺にはチョコを作るという大イベントがあるのだ。 すぐにL字のどデカソファにぼすんと座り、検索アプリを開いて簡単なバレンタインチョコの作り方を調べた。 「へぇー、色んなのがあるんだ…」 俺みたいな超絶初心者にも作れそうな物から、上級者向けのケーキっぽいやつ。俺はその中の『初心者向け!短時間で簡単!』と書いてあるURLをクリック。 琉唯くんが言った通り、溶かして入れて冷やすだけのやつ。材料は今日買ってきたので大丈夫そう。 よーし、あとは作るだけだ!!

ともだちにシェアしよう!