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バレンタイン当日、仕事に行く黒川さんを見送ってからチョコ作りを開始する。店長さんに頼んで出勤を遅らせてもらった。
今日の予定は、チョコを溶かして型に流して冷やしておく。そしたら帰ってきた時には固まっていて、それを黒川さんに渡す。我ながら完璧な計画かもしれない。
喜んでくれるかなぁ、と心配になるがまずは作らなければ始まらない!と気合いを入れて腕まくり。
「…ふんっ…!」
包丁に体重をかけながら次々と板チョコを刻んでいく。
意外と板チョコって硬い…。
手元からは甘い香りがふわりと舞い、完成したチョコを渡した時の黒川さんの顔を想像してしまう。
きっと喜んでくれるはずだ。
「…よーし。次は…」
チョコの作り方が載ったサイトを見ながら作業を進める。
次は湯せんってやつらしい。湯せんってなんだろ?湯せんの次の工程は『チョコを型に流し込む』だから、湯せんはチョコを溶かす工程だと推測する。
とりあえずチョコが溶ければいいんだな!
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俺が今日やる工程、まずチョコを刻んで溶かす。
そしてそれを小さいカップに入れる。最後に冷やす。それだけ。
それだけだったのに、なんだこれは。
「……………」
俺の目の前にあるのは焦げくず。
皿に入った黒い塊は、チョコかゴミなのか分からない。
思わず手が震えた。まさか自分がここまで料理ができないとは。
「……」
『湯せん』が何かわからず調べるのを面倒くさがった俺は、チョコを皿に入れてレンチンをし、そのままスマホでパズルゲームに没頭してしまった。電子レンジから煙が出ているのに気付き慌てて電子レンジを開けても後の祭り。皿に入っていたのはただの焦げくずだった。
何ワットで何分加熱したかなんて覚えていない。ただ確実に溶けるには長い時間かけた方が良いだろうと思ったのは憶えている。
情けない。溶かして入れて冷やすだけなのに。
どうしよう。チョコを全部使ってしまったし電子レンジを汚してしまった。帰ってきてからだと固まらないし、てか黒川さんの目の前で作る訳にはいかないし…。
「…まずは片付けか…」
黒い塊もとい焦げたチョコを捨てて換気扇を回す。
板チョコの銀紙や汚れたまな板を洗い、キッチンに広げていた包装セット一式をまたトートバッグに突っ込む。
そうこうしているうちにバイトの時間。
「あーもう!!こんな筈じゃ!!」
結局チョコ作りは失敗に終わった。
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