＊ 正臣さんのお誕生日会は、ごく普通のお誕生日会という雰囲気で一般人の俺もさほど緊張せずに過ごせている。 黒川さんと俺は離れた席だから話すことも目が合うことすらない。構成員さんたちに囲まれ少し微笑む黒川さんをコソッと盗み見て勝手にときめく繰り返しだ。 運命の番じゃないと言われた事なんか気にしない。いや気にするけど、今さらこんな事で大泣きはしない。 「ちょっとトイレ」 「おう、迷うなよ」 緊張が緩んでトイレに行きたくなってしまった。 隣にいた琉唯くんに声を掛けて、なるべく目立たないように部屋を出る。 あの部屋、畳で正座してたから脚痺れた〜。 「ふ〜」 無事に用を済ませトイレから出る。 「あっ、」 すると俺と同じようにトイレに来た正臣さんとバッタリ会った。 うっ…こ、怖い…。あの話聞いたあとだし、正臣さんって懐に短剣隠し持ってるイメージだから怒らせたらどうしようって毎回心配なんだよなぁ。 「今日は来てくれてありがとう。楽しめてる？」 正臣さんはいつもと変わらない微笑みで話しかけてくる。 俺はすぐに頷いた。 「はい、思ったよりラフな感じで」 想像ではなんかホテルのデッカい会場でたくさんの構成員さんたちが集まって、一言も喋ったらいけない雰囲気なのかなと思ってた。 少し緊張しているけど楽しいのは本当ですと自分なりに笑ってみる。そんな俺とは反対に、正臣さんは微笑んでいた顔を強ばらせた。 「華くん、少し二人で話をしよう。キミに聞いて欲しい話があるんだ」 「あ…はい…」 なんだろう、悪い話かな？聞きたくない。ていうか主役なのに席外すって大丈夫なのかな。 長い廊下を進んで連れて行かれたのは懐かしい東の間。 ローテーブルを挟み対面で座る。 「話なんだけど、僕ね、廉には幸せになって欲しいんだ」 「はい」 親が子の幸せを願うのは当たり前だと思う。 そして番を持つ人間が、相手の幸せを願う事も当たり前だと思う。 これから美しい親子愛の話が始まるのかな？と思ったが、正臣さんの表情はさっきより更に強ばった。 「僕の妻は…彼は、蘭と廉を産んだ後すぐに亡くなった。身体が弱かったんだ」 「え…」 唐突に始まったお義母さんの話。 知らなかった。黒川さんからお義母さんの話を聞いた事は無かったし、初めての挨拶の時も、その後何度かここに来た時も急だったから忙しくて都合が合わなかったんだと勝手に思っていた。 何より俺はいつも自分の事で精一杯で、気にする余裕なんて無かったんだ。