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親子

そう思っていた矢先の事。 早朝にも関わらず鳴り響くスマートフォン。 「えっ?お誕生日会?」 寝起きのガラガラ声で通話する相手は凛堂さん。 今週末に本家で正臣さんのお誕生日会をするみたいだ。 『はい、ですので金条さんにも。若と、あ、蘭さんの方ですね。それと佐伯とご一緒にいらして下さい。』 「はい、わかりました…」 プツッと通話が切れる。 俺も行っていいのか?あの話を聞いて以来初めて会うからどんな顔すればいいのか分からない。話を聞く限りでは本当は歓迎されているようじゃないみたいだし。 正直逃げたい。黒川さんも来るだろうし、歓迎の裏では…と考え出したら怖くて堪らない。 * 週末、昼過ぎに本家に到着。 琉唯くんと共に蘭さんの運転する車から降りる。 そこへちょうど黒川さんの車も到着して、運転席から出てきた廉さんと目が合った。 「あ…」 今日もお馴染みのブラックスーツに身を包んだ廉さんは、久しぶりに見るからなのかとてもカッコよく見える。 中身が高校生のままだからなのか、ネクタイが少し歪んでいるのに直していない。岩下さんとか会ってるはずなのに教えてあげないのかな?かわいい。 「二人で先行ってる」 「あ、うん、ありがとう」 蘭さんと琉唯くんは気を使って先にお屋敷に入ってくれた。駐車場に残ったのは俺と黒川さん。 黒川さんだ、本当に久しぶりだ、嬉しい、やっぱりかっこいい好き、どうしよう変な顔してないかな?、ハグしたら怒られるかな?、嫌われたくないけど触りたい。けど普通に考えてダメだよな。 ぼんぽん頭の中に浮かんでは消えていく忙しい感情。 こんなに近くにいるのに息が苦しい。 っていうか…本当になに話せばいいんだろう…。 迷っていると黒川さんが近付いてきた。 条件反射で後ずさり、砂利がザリっと音を立てる。 「こ、っんにちは」 「久しぶり」 それきり黒川さんは黙る。 あれ以来だ、どうせなら一番聞きたかったこと聞いてみよう。 「何であの時、蘭さんに預けたんですか」 ヒートの最中なのに、番じゃないαに俺を預けた理由。 黒川さんの口からきちんと説明して欲しかった。 「…、…」 十分すぎる間の後、黒川さんは重い口を開くように言った。 「…おまえ、運命って信じる?」 「…え?」 俺の質問の答えにはなってないけど…もしかして、俺との事思い出した? 思い出してくれた?俺と廉さんは運命の番で、唯一無二の存在なんだって! 「信じます!俺と廉さんは運命の番です!運命じゃなくても大好きだし、ずっと、あの、上手く言えないけど廉さんが好きで、…好きです!」 開いた距離を縮めるように数歩近付き黒川さんの手を握る。 でも黒川さんはそれを見つめるだけで握り返してはくれなかった。 「…お前の運命の番は、…俺じゃない」 「は?そんなわけ…ない、…」 目を逸らし、そのままやんわりと外された手。 俺は初めて黒川さんに拒絶された。 早とちりの期待は見事に打ち砕かれる。 拒絶と期待外れのショックで目の前が真っ暗になった。 俺はあと何回絶望すれば報われるんだろう。

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