187 / 225
咫尺天涯
それからしばらく経って秋が終わり冬になった。
黒川さんの事を考えないように詰め込んだバイトとレッスン。狙い通り二つに明け暮れる日々が続き、考える事も黒川さんに会うこともほぼ無くなっていた。
その代わりに、蘭さんとの時間が増えた。今もそう。
今朝、急に大量のレンタルDVDを持って俺の部屋のインターホンを連打した蘭さん。
バイトもレッスンも休みの今日。誰にそれを聞いたのかは分からない。白林さんと早野さんに確認するより、琉唯くんを捕まえて聞いた方が早いから多分そうだろう。
「次なに観る?」
4人がけソファの両端に座って観ていたファンタジー映画。エンドロールが始まった所で蘭さんが声をかけてきた。エンドロールは見ない派の俺。蘭さんも同じみたいだ。だってつまんないもんね。
「んー…アクションがいい、かも…です」
「かもって、俺もアクションがいいと思ってた」
俺の返事に笑いながら立ち上がる蘭さんは、俺の注文通りに話題の新作映画をデッキにセットした。
蘭さんの隣は落ち着く。琉唯くんも勿論そうだけど、蘭さんの匂いは黒川さんとそっくりだから。蘭さんを廉さんの代わりに見立てて利用してるって言ったら聞こえは悪いけど、こうでもしないと気が狂いそうだった。
「あ、そうだ。昼から佐伯誘って水族館行こう」
「急ですね」
水族館、黒川さんと行ったっきりだな…。いま黒川さん何してるんだろう。元気にしてるかな?やっぱり時間があると考えちゃうな…忘れられてても、邪魔だって思われてても会いたい。
「ふふ…」
「え?今おもしろかった?」
「いや、なんでもないです」
相変わらず俺は黒川のことが大好き。例え赤い糸が蘭さんと繋がってても、廉さんに新しい番がいても、あの人だけが好きだ。多分この先ずっと。
…てか水族館行くなら午前中から行ってじっくり見て回りたいんだけど!!なんて事は隣にいる破天荒な人には通用しない。
*
「はーっ、楽しかったけど疲れたー」
水族館からまた別の場所へ拉致されることも無く無事に帰宅した俺。
とりあえず風呂だけ済まし、ベッドに転がる。
あー、明日は午前中にレッスンで…そのあとはバイトだっけ…?何時に家を出ればいいのかな…なんて予定を立てているうちに下がってくる重い瞼。
忙しくて疲れる、けどたまに蘭さんと琉唯くんとする息抜きで何とか日々生きている。そんな毎日がずっと続けばいい。
ともだちにシェアしよう!