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目標
「金条さん!次はこの衣装です!」
バタバタと響く足音と、次から次へと渡される綺麗な衣装。
フラッシュが眩しいこの場所はファッション雑誌の撮影スタジオだ。
事務所に入って数年、最近になってやっと少しずつ仕事がもらえるようになってきた。
「いいねぇ爽くん!もうちょい上から見下ろす感じで!」
カメラマンの機嫌が良さげな声がスタジオに響く。
少し離れた所でカメラを向けられている爽が、指示通りに顎を少し上げてポーズをとる。
その姿は高校生の頃の無邪気なイケメンとは程遠い、爽やかでセクシー系な男性に変わっていた。
「…爽、…かっこよくなったなぁ」
身長も伸びたし体つきもガッシリした爽。
もはや服の宣伝なのか顔の宣伝なのかわからなくなる。
それに比べて俺は…身長は少し伸びたけど筋肉が中々つかない。俺は自分が成長できていない気がして毎日落ち込んでいた。
爽はあんなに自然に堂々としているのに俺は未だに表情もまともに作れない。こんなんじゃ…、
「廉さんに見つけてもらえない…」
俺には一つ目標ができた。
それは有名になってテレビに映ること。
廉さんだってテレビくらい見るし、俺が毎日視界に入ってもしかしたら何かのタイミングで思い出してくれるかもしれないから。
それなのに現状はこれ。情けない。
無意識に握り締めていた拳を、いつの間にか隣にいた白林さんが解いてくれる。
「大丈夫、華くんも良い方向に変わってるよ」
にこりと笑いながら安心させるように言ってくれるけど俺の心は落ち着かない。
「ありがとうございます」
頭を下げてお礼を言うけど全然足りないんだ。
綺麗な服もヘアセットやメイクも無駄にならないよう
に、もっともっと頑張らないと。
「金条さん!次はこっちです!」
白いフラッシュを横目に俺は新たに渡された衣装を受け取る。
それに着替えたあと、すぐに爽の元へ向かった。
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