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若干顔を青ざめさせた黒川さんは震える声で訊ねてきた。
「俺から逃げようとしたのか?違うよな?」
何の事か分からない俺は再び首を傾げる。
心当たりは何も無い。逃げるというより寧ろ、マンションの真下を借りて、俺が離れないように執着していたくらいだ。
「いや…お前のコップとか箸とか無いし冷蔵庫にも水しかなかったぞ。お前は緑茶しか飲まないだろ」
コップとか箸とか…って、…あ!!!
やばい、俺…下に引越したの言ってなかった。
「あっ…いや…」
いや、何もやばくない。俺は悪くない。だってそうだろ?
色々考えまくった末、あの状況じゃ引っ越すしか無かったんだ。そしてついさっき再会して全部話すじかんだってなかった。
しかし、一瞬でも『やべぇ』という顔をしたのを黒川さんが見逃すはずが無い。肩を掴んでいる手に更に力が入った。痛い。
「や、やっぱり俺から逃げようとしたのか?それか他に…他に……好きな、人間が……」
「いや…色々あって…」
穴が空きそうな程に見詰めてくる黒川さんからふいっと顔を背ける。
なんて説明すればいいんだろうか。
やっぱりよく考えると俺はあなたのお荷物なので考えた結果、離れようと思いましたがやっぱり大好きなのでマンションの真下を借りました。って言うのか?キモ過ぎるだろ。
「ま、まさか…まさかお前、…清水に乗り換え」
「たわけないじゃないですか!」
思わず大きな声が出た。
中々答えない俺に黒川さんはとんでもない事を言い出す。
よりによって爽とか有り得ない。
琉唯くんならまだしも爽。天と地がひっくり返っても有り得ない。
「ならこの状況は何なんだよ?俺が納得するように説明してみろ」
他に好きな人ができたわけがない、でも引っ越した理由を上手く説明できない俺と、段々イライラしてきた黒川さん。
なんで俺はこんなに喋るのが下手なんだ…本当に久しぶりに会えて嬉しいのに嫌な雰囲気になってしまったし…どうしよう。
もうキモがられてもいいから正直に言うか!そう決心してグっと拳を握る。そしてすぅっと息を吸い込んだその瞬間。
〜〜〜〜〜♪
「ぅわ!」
静かなリビングに着信音が鳴り響く。
俺のポケットの中、大きな音を出しながらブルブルと震えるスマホ。
「ここで出ろ。終わったらすぐ電源落とせ」
「…はい」
こんな大事な時にタイミングの悪い人は誰だよ…。
早く終わらせて早く仲直り(?)して早くイチャイチャしよ…とスマホの画面を見た俺は固まる。
画面に表示されている着信主は蘭さんだった。
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