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「ごめん、痛かったよな」
腹にまわされた腕。
どんどん締め付けは強くなって息苦しさを感じるほどだ。
それなのに苦しさも少し嬉しいと思ってしまう俺。
まるで心の奥底に隠した独占欲を現しているかのようで嬉しかった。もっと強くして欲しい。
ふるふる、と頭を振ると慈しむように首筋をかぷっと噛まれ身をよじる。
黒川さんは終始申し訳なさそうだけど、久しぶりの温もりが嬉しくニヤけそうなのを堪えて訊いた。
「痕消えてました?触った感じは大丈夫そうだったんですけど」
朝と夜、それと寂しくなった時、俺は首の後ろ…うなじを触るのが癖になっていた。
少しでこぼこしている歯型を確認して、まだ俺は黒川さんと番なんだと自分を安心させていた。
今朝だって触った。
その時はちゃんとでこぼこしてたから消えてるはずないんだけど…。
いや…、と口篭りながら俺の肩に顔を埋める黒川さん。
しまった、これじゃ振り返っても顔が見れない。
「…ん〜…」
「……?」
あー、とかうーん、とか繰り返す黒川さん。
そんなに言いたくない事なら言わなくていい。
聞いても聞かなくても俺は廉さんが好きだから。きっと何も変わらない。
そんな想いを込めて腕に触れると深呼吸のあと、すりっと頭を背中に擦り付けられる。
そして静かに、廉さんがずっと秘密にしていた本音を話してくれた。
「華が、蘭、に…とられてたらどうしようって、ずっと怖かった。だから、わざと蘭のこと教えなかった」
「………」
「なのに何か知らねーけど仲良くなってるし、もし噛まれてたら、また上から噛めばなかった事にできるかなって、思って…でもお前が蘭を選んだなら…」
廉さんも怖いことあるんだ…とキュンキュンしている俺だったが、それより歯切れの悪さが気になる所でもある。
俺が蘭さんを選ぶ?ありえない。いくら顔が良くてもあの人は絶対ないだろ…。
「俺、蘭に勝ってるところ一つもないから…お前さ、俺の顔好きだろ?俺と蘭、全く同じ顔だしあいつの方が明るくて気も使えて……」
「…確かに顔、好きだけど…それだけじゃないですよ…」
明るくて気も使える…廉さんの声のトーンから本気でそう思っていると分かるが、俺はそうは思わない。
唐突な水族館に映画館…弾丸旅行の数々を思い出し苦笑いする。
俺からしたら廉さんの方がとてつもなく魅力的に感じる。
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